読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ロバート・ブラウニング(1812-1889)の訳詩集三冊:富士川義之編訳『イギリス詩人選 6 対訳ブラウニング詩集』(岩波文庫 2005)、大庭千尋訳『ブラウニング詩集 男と女』(国文社 1975)、大庭千尋編訳『ブラウニング詩集』(国文社 1977)

詩人が詩の語り手たる人物の声を創造的に模倣する「劇的独白」の手法で20世紀の文学界に大きな影響を与えることになったロバート・ブラウニング。歴史上の人物や架空の人物のモノローグからなる詩の手法は、シェイクスピアジョン・ダンなどの影響からブラウニングが洗練させていったもので、エズラ・パウンド、T・S・エリオット、ウィリアム・バトラー・イエイツなどの20世紀前半を代表する英詩人に大きな影響を与え、日本では夏目漱石芥川龍之介らに感銘を与えていることが知られている。影響を受けた者たちがよりアイロニカルな形で「劇的独白」を発展させたのに比べると、ブラウニングの用いた「劇的独白」は肯定的なのか否定的なのか判別しずらい純粋憑依的なバランス感覚のもとに書き上げられているような感触がある。またシェイクスピアのように劇中の登場人物として相対化され客体化される語りではなく、あくまで詩人とは別人格の語り手自身の主観の表明にとどまっていることが多いため、読み手としてどのようなスタンスで詩に向き合うのが正解なのか少し戸惑うところもあるが、抒情詩や通常の詩劇とは異なるモノローグの物語詩あるいは劇詩というジャンルのごく初期のケースの造りの面白さに興味を惹かれ、どんどん読み進めることができる。日本では読まれることも研究されることもわりと少ない詩人ではあるが、人生に対して肯定的な言葉を紡ぎあげるブラウニングの基本的姿勢はあたたかく誠実でどこか懐かしさを感じさせる父性に満ちているので、何かのきっかけでより多く読まれることになる要素は多く持っているだろうと感じた。
※今回私が読むきっかけになったのは、先日読了したI.A.リチャーズ『実践批評 英語教育と文学的判断力の研究』の詩の読解の実験に参加した大学生のなかにひときわ目立つブラウニング愛好家がいたため。それほどいいと推している人がいるなら、英語ではないけれども、読んでみようと思った次第。

One who never turned his back but marched breast forward,
  Never doubted clouds would break,
Never dreamed, though right were worsted, wrong would triumph,
Held we fall to rise, are baffled to fight better,
  Sleep to wake.

顧みせず、胸を張り、私は前進した
 疑わず、雲が晴れるのを、
夢みず、正義が破れ悪が勝つとは、
倒れるは立ちあがるため、つまづくは戦うため、
    眠るは目ざめるため。

(『逍遥篇』「エピローグ」より 大庭千尋訳)

 


富士川義之編訳『イギリス詩人選 6 対訳ブラウニング詩集』(岩波文庫 2005)

付箋箇所:
35, 91, 141, 181, 235, 247, 253, 261, 301, 319, 332, 334, 326

大庭千尋訳『ブラウニング詩集 男と女』(国文社 1975)

付箋箇所:
18, 76, 176, 206, 255, 271, 277, 313, 316, 330, 405, 536, 565

大庭千尋編訳『ブラウニング詩集』(国文社 1977)

付箋箇所:
11, 25, 28, 113, 130, 141, 144, 160, 205, 208, 209, 272, 275, 276, 280, 292, 356, 363, 375, 377379, 383, 391

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ロバート・ブラウニング
1812 - 1889
大庭千尋
1909 - 1997
富士川義之
1938 -