読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『田中裕明全句集』(ふらんす堂 2007)

俳句には季語がある。その季語が分かっていないと読んでも何のことだかわからないということが起こる。調べながら読んだりもするのだが勢いをそがれるのでわからないからといって全部調べるというわけにもいかない。穴惑、つちふる、生御魂などは調べた。漢字も読めないものが結構多く、ずいぶん読む人を選ぶ俳人だなと思う反面、句の雰囲気はおおむね柔らかく穏やかで典雅な作風は心地がよい。日本の詩歌形式全般に詳しい年長の高橋睦郎を「新しさが懐かしさにまで達した句」と感嘆させた理由は本書を読めば俳句素人でもなんとなく理解ができる。

木の瘤の腥くある時雨かな
空へゆく階段のなし稲の花
春風にからだほどけてゆく紐か
秋の蝶ひとつふたつと軽くなる
くらければ空ふかきより落花かな

惜しまれつつ45歳の若さで亡くなった天才的俳人の全句業。一読の価値あり。

 

furansudo.ocnk.net

【目次】
第一句集『山信』
第二句集『花間一壺』
第三句集『櫻姫譚』
第四句集『先生から手紙』
第五句集『夜の客人』
「『夜の客人』以後」
「『夜の客人』拾遺」

田中裕明
1959 - 2004