AI(人工知能)とロボットとの付き合い方について、現代の日本の状況や世界的状況をを踏まえて、多分野の研究者6人が集うことで成立した新時代の倫理観をめぐる論文集。
全体的な印象として倫理は経済効率とは相性がよくないということがすべての人の発言から感じとれるのだが、経済効率的には正しくないが心地よく持続可能な道について気にかけ考える必要性を問うているところに本書の狙いはあるのだろう。
技術の発展を推進しつつ弱肉強食の資本主義の論理の先に予想される展開とは別のありようについて先端的知性がそれぞれ検討しているところが見られる。基本的には幅広い共生を可能にするコモンズの世界への誘導が基調路線となっているようだ。
各論考の傾向は以下のような感じ。
西垣通
開放系である機械と閉鎖系である生命の異なる系での情報の姿について
河島茂生
メディア研究。「ヒトは、メディアと一体となって考える」。文字から「人間=機械」複合系の世界へ
ドミニク・チェン
対象に関するケアの観点について
富山健
人間と共存可能な自律ロボットについて
広井良典
持続可能な福祉社会のビジョンについて
江間有沙
人工知能のリスクと倫理実装について
全般的に優等生的で、基本的前提としている世界の限界の破滅的局面や無慈悲な歴史的展開、悲観的ケースのリアリズムは感じ取れないが、それは本書の情報発信の志向とは異なるだけで、全体的にはそれほど気にならない。
読み通した後で思ったことなど:
有限な資源のもとでの経済的競争社会において、個々の人間の権利を守る法は許容可能範囲のギリギリのところで改定されていくような気がするが、厳しいなかでも希望がより多く持てる世界を期待せずにはいられない。
ありうべき道を提示しつづけるのが知識人たちの努めであり、感覚的なレベルに過ぎないにせよ自分の立場から吟味する姿勢を持ち続け安易な回答に靡かないようにするのが生活者としての努めであろう。
1972年にローマクラブが『成長の限界』を発表してから半世紀が過ぎて、事態はより深刻さを増しながら進展している。危機の状態にあっても人はよりよく生きつづけようとしていくほかはない。
【目次】
生命的機械の登場──まえがきにかえて……西垣通
■第一部|人間と機械
第一章 人間と機械の連続と非連続、そして倫理──観察の複数性とシステムのありようとの関係をもとに……河島茂生
第二章 人新世におけるAI・ロボット……西垣通
■第二部|ロボットとケア
第三章 非規範的な倫理生成の技術に向けて……ドミニク・チェン
第四章 ロボットの倫理……富山健
■第三部|AIと社会
第五章 AIを活用した未来構想と地球倫理……広井良典
第六章 AI倫理の実装をめぐる課題……江間有沙
【付箋箇所】
10, 25, 26, 28, 42, 50, 55, 69, 74, 75, 93, 94, 144, 156, 159, 166, 169, 174, 180, 181, 204
西垣通
1948 -
河島茂生
ドミニク・チェン
1981 -
富山健
1949 -
広井良典
1961 -
江間有沙