読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

足をのばす良寛

自制を少しゆるめるとき、足をのばして過ごす良寛が姿をあらわす。


【歌】
きさらぎの末つ方雪のふりければ

風まぜに   雪は降り來ぬ
雪まぜに   風は吹き來ぬ
埋み火に   足さしのべて
つれ/\と  草のいほりに
とぢこもり  うち數ふれば
きさらぎも  夢の如くに
盡きにけらしも

月よめばすでにやよひになりにけり野べの若菜もつまずありしに


ひになりにけり野べの若菜もつまずありしに

きさらぎ

冬ごもり   春にはあれど
埋み火に   足さしのべて
つれ/\と  草の庵に
とぢこもり  うち數ふれば
きさらぎも  夢の如くに
すぎにけらしも


天保元年五月大風の吹きし時のうた

我が宿の    垣根に植ゑし
秋萩や     一と本すすき
をみなへし   紫苑撫子
ふぢばかま   鬼の醜草
拔き捨てて   水を注ぎて
日覆して    育てしぬれば
たまぼこの   道もなきまで
はびこりぬ   朝な夕なに
行きもどり   そこに出で立ち
立ちて居て   秋待ち遠に
思ひしに    時こそあれ
さ月の月の   二十日まり
四日の夕べに  大風の
きほひて吹けば あらがねの
土にのべふし  ひさがたの
あめにみだりて 百千々に
なりにしぬれば 門さして
足ずりしつつ  いねぞしにける
いともすべなみ

てもすまに植ゑて育てし八千草は風の心に任せたりけり


草の庵に足さしのべて小山田の山田のかはづ聞くが樂しさ

草の庵に足さしのべて小山田のかはづの聲を聞かくしよしも

うづみ火に足さしくべて臥せれどもこよひの寒さ腹にとほりぬ


【詩】
生涯懶立身 
騰々任天眞
嚢中三升米 
爐邊一束薪 
誰問迷悟跡
何知名利塵 
夜雨草庵裡
雙脚等間伸 

生涯 身を立つるに懶(ものう)く
騰々(たうたう)天眞に任す
嚢中三升の米
爐邊一束の薪
誰れか問はん迷悟の跡
何ぞ知らん名利の塵
夜雨草庵の裡(うち)
雙脚(さうきやく)等間に伸ばす

 

我従住此中
不知幾箇時
困来伸足睡
健則著履之
従他世人讃
従爾世人嗤
父母所生身
随縁須自怡

我れ此の中に住してより
知らず幾箇の時
困(くるしみ)来れば足を伸ばして睡(ねむ)り
健(すこやか)なれば則履(り)を著(つ)けて行く
従他(さもあらばあれ)世人の讃
従爾(さもあらばあれ)世人の嗤(わらひ)
父母所生の身(み)
縁に随つて須(すべからく)自怡(よろこ)ぶべし


終日乞食罷
歸来掩蓬扉
爐燒帯葉柴
静讀寒山詩
西風吹微雨
颯々灑茅茨
時伸雙脚臥
何思又何疑

終日食を乞ひ罷(や)んで
歸り来つて蓬扉(ほうひ)を掩(おほ)ふ
爐には葉を帯ぶるの柴を燒(た)いて
静に寒山詩を讀む
西風微雨を吹き
颯々(さつさつ)として茅茨(ばうし)に灑(そそ)ぐ
時に雙脚を伸して臥し
何をか思ひ又何をか疑(うたが)はん


良寛
1758 - 1831