淡い味わいの文芸作品。風流の人というよりは侘しさをまとった人が生きた言葉のすがた。香ることもあれと敢えてとどめた情感の残滓。
007 まだ咲かぬ梅をながめて一人かな
188 凩(こがらし)や電車過ぎたる町の角(かど)
233 寂しさや独り飯(めし)くふ秋の暮
305 秋の雲雨ともならで海の上
339 何もせぬ人の心や秋早し
407 砂糖つけて食麵麭(しょくパン)かじる夜長哉(よながかな)
783 夕立やその儘(まま)暮れて夜の雨
804 春信(はるのぶ)の柱絵古(ふ)りぬ窗(まど)の秋
漢詩一篇
花は落ちて 晩風冷やかなること秋に似たり
一身多病閑愁に慣れたり
居偏にして却つて人の到る無きを喜び
黙座して唯だ聴く雨を喚ぶ鳩
永井荷風
1879 - 1959
加藤郁乎
1929 - 2012