読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ピエール・ルジャンドル『同一性の謎 知ることと主体の闇』(原書2007、訳書2012)

佐々木中推薦のピエール・ルジャンドルの高校生向けの講演録。日本語と円を使って生をおくっている日本人は、日本語と円の信用体系の中で生きつつ維持しているというようなことを意識化してくれる。

私たちは、世界の物質性と言語との関係が、イメージへの信頼、真理への信を導入するという点で、実際に信用(クレジット)の問題であるということが分かりはじめる。言い換えれば、現実は信任される必要があるのであり、私たちがここでただならぬ関心を寄せるのは、まさしくこの信任のメカニズムである。なぜならこのメカニズムこそが、制度的な構築の基礎だからだ。
仮にそうでないとすれば、つまり想像的なものなど関係がないとすれば、哲学的な表象の問題、つまり私たちが言葉を媒介として現実と取り結ぶ律法的関係の問題、言い換えれば制定された意味作用関係(言葉と物との規範的な結びつき)の問題は、問われることすらないだろう。例えば「テーブル」というシニフィアンは、他には代えられないひとつのシニフィエに関係し、他ならぬまさにその対象を示す(テーブルは椅子ではない)。この観点からすれば、意味作用という制度が示しているのは、紙幣と同じく言葉にも、ひとつの強いられた流れがあり、だれもこの流れを自由に受け入れたり拒んだりすることが出来ないということである。そればかりか、制定された意味作用こそが、詩的な放縦そのものの土台をなしているのだ。
現実は世界の真理への信を基礎づける上演を必要としており、それがなければ語る動物の条件が崩壊するのは、疑いようのないことである。(「理論的な広がり 社会的モンタージュの言語的構造」p79-80)

しかしフランスのエリート高校生はよくこんなの聴いて理解できるもんだなと感心しながら読んだ。文字化されていなかったら私にはお手上げの講演内容だ。

※引用の太字は実際は傍点

www.ibunsha.co.jp

目次:
はじめに 意欲ある若者たちへ……
向こう傷 科学と無知について 若き学生たちに向けた講演
 Ⅰ 第一の方向
 鍵を握る問い
 近代的な科学システムの形成において、片隅に追いやられたのは何か?
 Ⅱ 第二の方向
 科学が自分のものにできなかったものの方へ
 主体についての知
応用編
 Ⅰ 自らを認識する 文明の指標に関する西洋的な経験についての注記
 Ⅱ ユダヤ=ローマ=キリスト教のシナリオからの派生物 国家の概念
 Ⅲ 理論的な広がり 社会的モンタージュの言語的構造
イコノグラフィ
 自らの保守者たる西洋 証左となる三つの図版


ピエール・ルジャンドル
1930 -
橋本一
1974 -