読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

エルンスト・カッシーラー『シンボル形式の哲学(四) 第三巻 認識の現象学(下)』(原書 1929, 岩波文庫 木田元訳 1997) 量子論時代の哲学

わめき叫んでいた音声から量子論が語られるようになるまで、数の概念がなかったところから虚の世界、複素数が描き出す世界まで、人間のシンボル形成能力を芯に描ききった20世紀の遺産。世界の見方を教え、変えてくれるという哲学の醍醐味が味わえる著作。

ピタゴラス教団の人たちによって思考と存在の根本原理だと確認されたような意味での整数が、つねにおのれ自身の限界を超え出るように駆り立てられてこなかったとしたら、つまり、もし整数が継続的に<拡張され>てこなかったとしたら、「実数」の領域は、現代解析学において獲得されたような形式には構成されえなかったであろう。最初に定立された数概念のこうした拡張の必要性が生じたのは、この数概念が、純粋に数概念自身の領域内で生じた問いにではなく、直感的世界すなわち量の世界が数概念につきつけた問いに答えようとしたことによる。無理数の発見に導いたのも、当初は長さの測定の問題であり、これが、いわば最初に数にはめられていた箍を打ち破るよう数に迫ったのである。その際、はじめのうち無理数そのものは、その呼び名からだけでもすでに明らかなように、数そのものと数に内在するロゴスにとって異質なものだと思われた。
(第3部 意味機能と科学的認識の構造 第5章「自然科学的認識の基礎」 「理想的な要素」と数学の構築にとってのその重要性 p256 )

シンボル形成とともに世界が広がる。

 

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目次:

第3部 意味機能と科学的認識の構造
 概念の理論について
  「自然的世界概念」の限界
  概念
   概念と法則/数学的論理学における概念の位置/クラス概念と関係概念/命題関数としての概念/概念と表象
 概念と対象
 言語と科学―物の記号と秩序の記号
 数学の対象
  数学の形式主義的基礎づけと直観主義的基礎づけ
  集合論の構築と<数学の原理的危機>
  数学理論において「記号」の占める位置
  「理想的な要素」と数学の構築にとってのその重要性
 自然科学的認識の基礎
  経験的多様と構成的多様
  物理学的系列形成の原理と方法
  現代物理学の体系における<シンボル>と<図式>
  

【付箋箇所】
21, 53, 78, 83, 96, 99, 113, 154, 173, 202, 206,243, 252, 256, 261, 268, 277, 283, 297, 309, 329, 331, 333, 347, 348,356, 357, 360

 

エルンスト・カッシーラー
1874 - 1945
木田元
1928 - 2014