読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

西垣通『生命と機械をつなぐ知 基礎情報学入門』(高陵社書店 2012)ネオ・サイバネティクス論の一分野として著者が提唱する基礎情報学の高校生を想定した初学者向け教科書32講

『基礎情報学 生命から社会へ』(2004)『続 基礎情報学 「生命的組織」のために』(2008)と展開してきた基礎情報学のエッセンスを提唱者本人が可能なかぎりわかりやすくコンパクトにまとめあげた一冊。図版の多用や本文中の具体例あるいは関連コラムで親しみやすさを追求しており、そこは成功していると思われるものの、目次で挙がっている概念を見るだけでも、なかなか歯ごたえのあるラインナップで、とてもいっぺんに理解可能なものではない。マトゥルーナとヴァレラが提唱したオートポイエーシスという自己創出の概念に慣れるのにさえ複数冊の解説書が必要なくらいなのに、その他多くの大物概念が当たり前のようにぽっと顔を出してくる。情報社会を生きるための各種知見について興味を持ったところから深堀していくためのガイド本としてはとても有用。ただし、参考文献に上っているのは入門書ではなく本物が多いので、気軽に手を伸ばしてみると、入り込んで行けない可能性も高いし、そもそも大型書店や図書館にさえ置いてないこともある。チャレンジするのもいいことだが、せっかく盛り上がった気分に水を差さないくらいの進捗のペースと勾配の調節はする必要があると思っていた方がよい。高校生だろうと中年だろうと焦りすぎてはいけない。

基礎情報学の目的は、上記三つの情報学(引用者註:情報工学、応用情報学、社会情報学)の基盤を固め、さらに情報社会の現実問題に対処するための理論的見通しを得ようとするところにある。内容的には文理融合型であるが、方法論としては、生命哲学、記号論理論社会学、認知心理学などと関連が深い。とりわけ、ネオ・サイバネティクス論(オートポイエーシス理論、ラディカル構成主義理論、機能的文化社会理論など)の一分野として位置づけることもできる。
(第1章「情報」1.2 情報学の分類 p16 )

ラディカル構成主義認知心理学者のエルンスト・フォン・グレーザーズフェルドの提唱した概念。
機能的文化社会理論は二クラス・ルーマンの社会システム理論。

 

目次:

第1章 情報
1.1 情報とは何か
1.2 情報学の分類
1.3 情報の伝達と蓄積
1.4 情報量
1.5 身体と生命情報
1.6 記号と社会情報
1.7 ITと機械情報
1.8 デジタルとアナログ
コラム1 情けのしらせ

第2章 システム
2.1 自律システムと他律システム
2.2 コンピュータ・システム
2.3 有機構成
2.4 オートポイエーシス
2.5 心的システム
2.6 社会システム
2.7 階層的自律コミュニケーション・システム
2.8 ロボット
コラム2 自分さがし

第3章 メディア
3.1 伝播作用
3.2 成果メディア
3.3 連辞的メディア
3.4 範列的メディア
3.5 マスメディア・システム
3.6 ウェブ検索
3.7 双方向メディア
3.8 インターネット・システム
コラム3 モバイルな神様

第4章 コミュニケーションとプロパゲーション
4.1 システム作動と意味伝播
4.2 構成される世界
4.3 個人の学習
4.4 組織の学習
4.5 機械の学習
4.6 システムの進化
4.7 デジタルデバイド
4.8 人間=機械複合系

西垣通『生命と機械をつなぐ知 基礎情報学入門』(高陵社書店 2012)http://koryosha.co.jp/menu/243/


西垣通
1948 -