読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

エルンスト・カッシーラー『現代物理学における決定論と非決定論 因果問題についての歴史的・体系的研究』(原書 1937, みすず書房 改定新訳版 2019)関数に凝縮された経験知

主著『シンボル形式の哲学』以後に展開した量子論のある世界での認識論。まだまだ古典力学の巨視的世界像のなかに住まい、量子論的世界に慣れない思考の枠組みをもみほぐしてくれる哲学書

関数論的な捉え方を重要視するならば、問題はまったく異なった仕方で表現される。そのときには、原子の「存在」をめぐる問い、すなわちその本質と構造をめぐる問いについて、わたしたちが受け取る回答が多種多様であるということは、もはや否定的なことではない。というのも関数というものは、一連の値において次々と自己展開してゆくことにおいてのみ<存在する>からである。それを単一の像に押し込めることは不可能であり、それはそのすべての特殊的形状を一つの普遍的規則のもとに包摂し、そのすべての特殊的形状をさまざまに異なる適用事例として含んでいるのである。この適用事例のどのひとつといえども、そこで認識が立ち止まることのできる最終目標ではない。それはどこまでいってもつねにひとつの里程標、認識が自己の置かれている位置や踏破した道程を読み取ることのできる里程標でしかない。とはいえ、この道程が私たちの前方はるかに先まで続いているということ、いかなる終着点も見えないということ、「これ以上先はなし(non plus ultra)」という点が見えないということ、このことを嘆くには及ばない。というのも、わたしたちが求める真理は、経験的真理としてはつねにひとつの過程の真理でしかなく、最後決定的な真理ではあり得ないからである。この歩みにおいて私たちが統一的<方向性>を堅持し、それを確信しているかぎりにおいて、その方向性のなかに、そして唯一そのなかにのみ、私たちは真理の標識を有しているのである。
(第4部 量子論の因果問題 第二章「原子概念の歴史と認識論によせて」p180太字は実際は傍点)

条件も制限もあるなかでの真理から必然に従うことの自由にいたるシンボル形成能力の視点からみた世界像。ファインマン物理学と併せ読むと物理現象の世界、古典力学量子力学の繋がりと繋がらなさ具合がよりよく飲み込めるかもしれない。

 

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目次:

第1部 歴史的・予備的考察
第一章 「ラプラスの魔
第二章 形而上学決定論と批判的決定論

第2部 古典物理学の因果原理
第一章 物理学的命題の基本型——測定命題
第二章 法則命題
第三章 原理命題
第四章 普遍的因果律

第3部 因果性と確率
第一章 力学的な法則性と統計的な法則性
第二章 統計的命題の論理学的性格

第4部 量子論の因果問題
第一章 量子論の基礎と不確定性関係
第二章 原子概念の歴史と認識論によせて

第5部 因果性と連続性
第一章 古典物理学における連続性原理
第二章 「質点」の問題によせて
最終的考察と倫理学的結論

英訳版の序文
訳者あとがきと解説

 

【付箋箇所】
14, 19, 21, 32, 71, 105, 107, 124, 128, 132, 145, 155, 157, 158, 169, 174, 180, 196, 199, 211, 216, 225, 226, 230, 242, 244, 280, 290, 293, 297, 303, 311, 316, 321

 

エルンスト・カッシーラー
1874 - 1945
山本義隆
1941 -