読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

【モンテーニュの『エセー』つまみぐい】03. 荒木昭太郎訳で 3-13, 2-10 繊細な精神で清濁併せ呑むモンテーニュ

『エセー』最終章「経験について」(3-13)。モンテーニュ56歳に書いたことがうかがわれる記述が見える。病を得、身体の老いも目に見えてくるなか、いたずらに抵抗することなく、自身の運命とともに人生をゆっくり歩むことを、しずかに淡々と諭すように書いている。中年以降の人間には、特に身に沁みて味わい深い章となっている。多くの人に引用される名句も数多く含まれているので、順番通りに読んで最後までたどり着かないよりも、どこか適当なところでつまみ食いした方がよい。
なるべく引用されることの少ない文章で、魅力的なものというので次のものをピックアップしてみる。

避けることのできないものは耐え忍ぶよう学ばなくてはならない。われわれの生涯は、ちょうど世界の調和が相反したものごとで構成されているように、さまざまな、快い音や耳ざわりな音、鋭い音や平板な音、柔らかい音や重々しい音で構成されている。一方の音だけを好むような音楽家は、何を表現する気なのだろうか。

訳注にはプルタルコス『倫理論集』「爽快な気分について」一五より引かれた比喩とあった。自分が読んだ好きな文章を自分の本の中に埋め込んでいく歓びを感じながら時を過ごしていたモンテーニュの姿が目に浮かんでくる。幸せな読書と幸せな著述の時間を羨みたい。

2-10は「書物について」。モンテーニュの好きな著述家が次々に紹介されていて趣きがある。詩人としてのウェルギリウスルクレティウス、カトゥルス、ホラティウス、思索家としてのプルタルコスセネカが特別視されているようだ。モンテーニュの『エセー』は古典への引用文付きの案内のようなところもあるので、引用元の著作といったり来たりしながら味わってみるということも可能だ。長期視点でゆっくり楽しむのもいい。

 

ミシェル・ド・モンテーニュ
1533 - 1592
荒木昭太郎
1930 -