読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ロビンドロナト・タゴール詩集『螢』(原書 Fireflies 1928 ロンドン, 川名澄訳 風媒社 2010)

タゴールの詩は「すべてのものであるひとつのもの」としての神とともにあることうを詠う詩である。インド、ベンガル州生まれのタゴールの神はブラフマンを感じさせる。彼の詩で謳われる神は、裁く神ではなく、共にあり、創造し生成する神で、その汎神論的でおおらかな存在は、私たち日本人にとっても親和的な神である。この神は、たとえば次のように詠われている。

神はわたしのなかに見たがっている、神のしもべではなく、
 万人のために奉仕する神のすがたを。
 
God loves to see in me, not his servant,
 but himself who serves all.

 

第142詩篇の全篇、わずか二行の詩。アフォリズムのようでもあり、それでいて押し付けがましさや説教くさいところがないところが詩として魅力的だ。

詩集『螢』は上記引用のような短い詩句、一行から長いもので七行までにおさまってしまう短詩258篇から成る作品集で、風媒社刊行の訳書では、見開き右ページに英語の原詩を、左ページに訳詩を配置してある。日本語訳を読んで英語原文を眺めてみると、また少し違った印象になるのが面白い。原詩のほうが神との距離感が近いような印象だ。

258篇、一時間程度で全篇読めてしまうので、何度か繰り返しよんでも全然苦にはならない。読み返すたびに、違った詩句が新鮮に見えてくるのが楽しい。直近では、たとえば次のような詩句に目を留めている。

蝶のいのちは 幾月どころか ほんのひととき、
 そして 時間が足りている。
 
The butterfly counts not months but moments,
 and has time enough.
(第9詩篇

 

枯葉は 土にまみれて消えるとき
 森のいのちに参加する。

Dead leaves when they lose themselves in soil
 take part in the life of the forest.
(第249詩篇

 

 

現在品切れ中というのは、とても惜しい。


ロビンドロナト・タゴール
1861 - 1941
川名澄
1960 -

参考: