吉原幸子の編集構成になる草野心平詩選集。発行詩集暦年方式とは全く異なる構成をもつので、ほかの詩選集とは一線を画している。そのため、よく取り上げられる代表的詩作品もすこし違った印象が新たに出てくるし、近くに配置されている詩にもより親しみや感動が生まれてくる。
蛙の詩人とも富士山の詩人とも呼ばれる草野心平の本書における紹介の仕方は、以下四つのカテゴリーに分けられている。
1.<天・山> 28篇
2.<地・草木> 23篇
3.<人> 37篇
4.<蛙・生きもの>32篇
各カテゴリー内では基本的に発表年代順に作品が配置されている。編纂時における最新詩集『雲気』(1980)までの作品から収録作が選択されているが、『マンモスの牙』(1966)以降の後期作品からより多くとられているのと、編者吉原幸子の好みが反映された比較的マイナーな作品が多くとられているのが特徴といえる。他の詩選集ではあまり見られない作品に出会えるので、詩選集としての存在価値はほかのものに比べても十分高い。また巻末に収められた歴程後輩詩人の山本太郎による草野心平研究のエッセイも辛みが効いていて、新たな視角を提供してくれる。
どうして雪は。
紅梅のまはりに余計降りたい気持ちになるのか。
降つて積つてそして晴れて紅梅の紅を更に鮮やかにしたいのか。(そんな馬鹿な)
けれどもどうしてごつごつの生命(いのち)のはてに。
ひらく花花が紅なのかどうしてそれは匂ふのか。
(<地・草木>の部 『原音』1977 「紅梅」部分)
「神様は彼に一層敏感な神経と、一層柔らかい魂と、やりきれないことには一層強い愛情さえもおさずけになったのだ」というのは、山本太郎による草野心平評である。抽象に流れない具体物との交流が草野心平の詩のフィールドである。しかしながらそれが天上的でもあるのが不思議なところだ。
草野心平
1903 - 1988
吉原幸子
1932 - 2002
山本太郎
1925 - 1988