読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

現代詩文庫1038 清水昶編『三好達治詩集』(思潮社 1989)

谷川俊太郎高橋睦郎田村隆一など、詩人として高く評価している人物がいるいっぽう、評価と批判相半ばする者、全面的に否定する者など、生前も死後もよく論じられたというところが、三好達治の存在と詩作品の重要さを感じとらせてくれる。

本書は全面的に肯定する人は編者清水昶を含めて一人もおらず、個人の詩選集としては珍しく厳しい評価のもとに三好達治を振り返った著作になっている。三好達治につづく世代の鮎川信夫高橋和巳清水昶はその存在を乗り越えていく必要もあってかかなり辛口で、失望の色も隠さずに詩人を語っている。同世代の友人石川淳も戦争詩に向かった時期の詩人に当惑を隠さないが、永い詩作の変遷についてはほどよい距離を保ちつつ冷静に評価しているのは印象的だった。後続世代3人のエッセイよりも、より俯瞰的に歴史的視点から詩と人物双方を良く表現し位置づけ評価しているようなところがあって、本書の中では三好達治を救いあげている。

収録作品の特徴としては、代表作であり処女作である『測量船』全篇が採られていること(全体では散文詩の印象が強くなる)、戦時期の詩集からの作品も採られ研究解説のなかでも触れられていること、口語詩から文語詩の形態に移る詩型の変化の中で文語詩の印象が強いこと、などがあげられる。思潮社の現代詩文庫の特徴として、どちらかというと詩人に対して研究の対象として迫るというところがあり、歴史的な詩人に出会う一冊目としてはあまりお勧めはしない。新潮、岩波、ハルキ文庫など大手出版社の手軽に手にすることのできる文庫の次に読む一冊であろう。

目次:
詩集「測量船」全篇
詩集「南窗集」から
詩集「閒花集」から
詩集「霾」から
詩集「草千里」から
詩集「一点鐘」から
詩集「朝菜集」から
詩集「寒析」から
詩集「花筐」から
詩集「千戈永言」から
詩集「故郷の花」から
詩集「砂の砦」から
詩集「駱駄の瘤にまたがって」から
詩集「百たびののち」から

詩集・エッセイ
 国民詩雑感
 現代詩について
 詩人の生活
 交遊録

研究
 鮎川信夫
 高橋和巳
 石川淳
解説
 自然としての状況 清水昶
 
三好達治
1900 - 1964
清水昶
1940 - 2011
鮎川信夫
1920 - 1986
高橋和巳
1931 - 1971
石川淳
1899 - 1987