読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

河本英夫+稲垣諭 編著『iHuman AI時代の有機体-人間-機械』(学芸みらい社 2019)

芸術家、哲学者、人工知能と人工生命の研究家など多方面で活躍する10名の人物によって、それぞれの視点から現時点での自然と人工の技術の関係性を問うた論考10篇。高度に発達した人工知能の視点から見れば思考や身体というものにおいて人間という存在自体が限界をもちボトルネックとなっている面が多々浮かび上がってくるが、制限されている状態や不合理で割り切れないようなものの存在にこそ人間の特徴があるのではないかという発想に至りつく人が多いように感じられた。究極的にはセンサーとモーター(アクチュエータ)の連動で語ることのできる機械の仕組みと、まだそれだけでは語りきることのできていない人間の仕組み。いま現在までに達成された技術的成果は完全に排除されるということなく、生身の人間との共存はこれから先もつづいていく。その未来に向けては、自然に人工的な手が介入することでより豊かな生態系を生んでいる里山的なモデルが有効なのではないかという提案が印象に残った。実際に技術の側から人間に対してどのような介入をするのがより良い結果を生むのか、人間の側から機械的なものに対してどのような刈り込み方をしていくのが良いのか、具体的なことに関してはそれっぞれの現場で適宜考えていくしかないのだろうが、全体最適性を目指すには隙間を許す思考をあえてすることが必要であるという指摘は参考になった。

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目次:
序 章 美・善・真:AIと「人間の経験」の拡張    河本英夫(哲学/システム論)
第1章 非人間:シンギュラリティと「人間の終焉」 宇野邦一(フランス文学/現代思想)
第2章 出来事:「態」の演劇          松田正隆(劇作家/演出家)
第3章 手順:情報技術時代の制作論       村山悟郎(アーティスト)
第4章 道具:「ポスト・ヒューマン」以後    稲垣諭(現象学/環境哲学)
第5章 創造:想像力をめぐる戦争の時代の芸術  笠井叡(舞踊家)
第6章 切断:「無能な人工知能」の可能性    アダム・タカハシ(ルネサンス自然哲学史)+高橋英之(認知科学/神経科学)
第7章 偶像:労働力としての人工知能      松浦和也(ギリシア哲学)
第8章 調停者:ネクスト・レンブラント      古川萌(美術史)
終 章 反実仮想:「いのち」を造る          河本英夫+池上高志(複雑系科学/ALife研究)

河本英夫
1953 -
稲垣諭
1974 -