読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

近藤和敬『ドゥルーズとガタリの『哲学とは何か』を精読する 〈内在〉の哲学試論』講談社選書メチエ 2020)

ドゥルーズガタリによる最後の共著『哲学とは何か』の詳細な読解。思考の「三大形式」である「哲学」と「科学」と「芸術」を「超越」を拒否する「内在」と「カオス」の概念との関係性からそれぞれ見極めていくスリリングな書物となっている。注を含めて600ページにもなる大きな書物だが、順を追いながら丁寧に読み分けていく手続きは、哲学界の外部にいる一般読者にとっても付いていきやすい経路をつくり出してくれている。スピノザ-カヴァイエスドゥルーズの系譜をたどりながら一貫して〈内在〉について思考してきた著者近藤和敬自身の見解や今後の展開についてもめずらしく語られたりもしていて、大変興味深く読むことができる。

哲学と科学と芸術は、ともに思考のありようであり(思考の「三大形式」)、しかもそれぞれの仕方で、カオスに向かい合い、それを乗り越え、無限とのあいだにそれぞれの関係をもたらすという意味で、互いに還元不可能な思考の三つのベクトル、三つのエレメントを形成している。科学は「現働化」の線にそって、それに固有の「脱領土化」を試み、「物の状態」、「物」、「体」を構成し、その展開の系列にそって、分岐させる。哲学は「反ー実現」の線にそって、それ固有の「脱領土化」を試み、「無限運動」からなる「内在平面」と「無限速度」をもつ「概念」によって「出来事」を「俯瞰」する。芸術は、「合成平面」を描き、「可能的なものの現実存在」である「感性的像」の働きによって「感覚合成態」と「モニュメント」を「保存」する。
(第三部 『哲学とは何か』を読む 第五章 「第二部 哲学、科学、論理学、芸術」を読む 3「ペルセプト、アフェクト、概念」を読む p505 )

かぎ括弧の多い文章で、ここだけとりあげると強調が多くて意味の取りづらい文章に見えるかもしれない。しかし、順を追ってたどってきたものには、事前に説明されていたかぎ括弧の強調部分について適切に注意喚起されていて、逆に親切にも思えてくるのだ。概要、用語、読解と急ぐことなく積み上げてきた歩みの仕上げの輪舞のような部分と言えるかも知れない。

本自体の厚さにひるむことなくとりあえず手に取ってみて欲しい一冊。税抜き定価2900円で、ページ単価5円に満たないというのも大盤振る舞いのレベルにある。

 

bookclub.kodansha.co.jp

【付箋箇所】
19, 35, 39, 64, 70, 77, 78, 82, 83, 94, 105, 126, 134, 137, 140, 143, 144, 146, 156, 159, 162, 164, 167, 172, 177, 191, 202, 219, 244, 268, 271, 274, 292, 303, 353, 362, 384, 388, 391, 399, 413, 436, 443, 448, 464, 478, 502, 505, 554, 587, 588, 589

目次:
第一部 ドゥルーズガタリの「内在」という概念はどのような概念であるのか
 第一章 主体でも客体でもない「内在」
 第二章 ドゥルーズおよびドゥルーズガタリの著作群における「内在」概念の考古学 
 第三章 「内在」概念の考古学的探査(1)
 第四章 「内在」概念の考古学的探査(2)
 第五章 「内在」概念の考古学的探査(3)
 第六章 「内在」概念の考古学的探査(4)
 第七章 「内在」概念の考古学的探査(5)
 第八章 「内在」概念の考古学的探査(6)
 第九章 ドゥルーズの著作群における「内在」概念の系譜学
第二部 科学、芸術、哲学そして脳
 第一章 共通的解釈、外的解釈、内的解釈
 第二章 擬製的創造あるいは創造の逆イデア論的定式
 第三章 〈内在の哲学〉の実在概念と擬製的創造についての哲学史的註解
 第四章 言表行為としての哲学的言表の力
 第五章 〈内在の哲学〉の実在概念について
 第六章 擬製的創造の定式が含む本源的ギャップ
 第七章 〈内在の哲学〉における実在の全体と部分
 第八章 〈内在の哲学〉における真理/真偽概念
 第九章 〈内在の哲学〉の立場からみた「哲学的概念」の解明
 第十章 科学における「擬製的創造」
 第十一章 知覚と情動の「擬製的創造」
 第十二章 「擬製的創造」を経て至福にいたる道
 終章 「擬製的創造」と「主体-脳」
第三部 『哲学とは何か』を読む
 第一章 第三部の構成
 第二章 『哲学とは何か』の概要と解釈の大筋
 第三章 「序論」を読む
 第四章 「第一部 哲学」を読む
 第五章 「第二部 哲学、科学、論理学、芸術」を読む
 第六章 「結論 カオスから脳へ」を読む

近藤和敬
1979 -
ジャン・カヴァイエス
1903 - 1944
ジル・ドゥルーズ
1925 - 1995
バールーフ・デ・スピノザ
1632 - 1677