読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ライアル・ワトソン『ネオフィリア 新しもの好きの生態学』(内田美恵訳 筑摩書房 1988, ちくま文庫 1994)

宇宙の奇妙さ、地球の奇妙さ、生命の奇妙さに科学者的視点から迫ろうとする知的興奮に満ちたエッセイ集。神秘現象と見なされるような事象に対しても、いたずらにタブー視するのでもなく、かといって無闇にまつりあげるのでもなく、実験と観測データから合理的説明がつくような論理を組み立てて説明しようとしているところに著者の真摯さと奥深さを感じる。また、執筆当時の最先端の教養と詩的感性に裏打ちされた驚くべき楽観主義の言説が躍動していて、きわめて爽快でもある。

地球にはどこか奇妙なところがある。いや、正確にいうと、われわれの世界は何もかもが風変わりだ。地球は宇宙の中の変わり種、あらゆる法則を破る惑星なのである。
(2「地球(ガイア)が生まれた日」より)

観測する者が観測対象に影響を与えつつ観測していることが、奇妙さのなかでも最大の奇妙さのひとつ、生命現象の奇妙さであり、人間という種の奇妙さである。問いを発しても完全な答えが返ってはこない奇妙さのなかにいても、人はよく退屈してしまうものであるのだけれども、ライアル・ワトソンの文章は、退屈するなんてもったいないと、親切にしかも陽気に人々に触れ廻っているような趣がある。人間存在の本質にネオフィリア(新しもの好き)を挙げているライアル・ワトソン当人が、いちばんの新しもの好きであり、好奇心の塊であるところが好ましく、論考に説得力も与えている。なかなかの好書。

章毎に付けられた坂田哲也のシュルレアリスティックな挿画も本書に花を添えている。

www.chikumashobo.co.jp

【付箋箇所(ちくま文庫)】
30, 32, 39, 72, 79, 84, 88, 97, 123, 157, 166, 170, 211, 222, 227

目次:
はじめに
1 宇宙のためいき
2 地球(ガイア)が生まれた日
3 生命の兆候
4 秩序と無秩序
5 存在と意識
6 人間の糧
7 セックスの難点
8 知覚の窓
9 見ることの真実
10 耳寄りな話
11 音をめぐって
12 この馨しきもの
13 方向感覚
14 超感覚的知覚ESP
15 火に憑かれて
16 エクスタシーへの道
17 生命の季節
18 顔がものを言う
19 言葉の通ってきた道
20 仲間意識の中身
21 意識の彼方へ
22 芸術衝動
23 心の調べ
24 リアリティの本質
結び


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