読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

山内志朗『中世哲学入門 存在の海をめぐる思想史』(ちくま新書 2023)

中世哲学自体が錯綜していることもあってか著者の熱意にもかかわらず入門書としてあまり整理されているとはいえないという印象を持った。著者と中世哲学とのかかわりについての昔語りや、中世哲学者の思想読解にかかわる困難さに対する嘆きが頻繁にちりばめられているために、著者の中世哲学に対する向き合い方については割とよく伝わってくるものの、数多いる中世哲学者それぞれの関係性は示されてはいるけれども明快に割り切れるような書き方にはなっていない。自分で調べていくための足掛かりとするか、概要をなんとなく押さえるくらいで満足するのが良いような書物ではないかと思う。

「十三世紀から十四世紀にかけて、つまりトマス・アクィナスからオッカムに至る時代の流れは、超越概念の拡張と志向性を哲学に組み込むこと(アリストテレス哲学へ認識論を追加すること)として捉えられる」という「認識論的転回」の錯綜した展開をたどりながら、中世から近世への移行を見ていこうとしたところには価値があるが、全400ページというボリュームについては読者によってはかなり冗長と感じることもあるであろう。

www.chikumashobo.co.jp

【目次】
第1章 中世哲学の手前で
第2章 中世哲学の姿
第3章 存在の問題
第4章 存在の一義性への道―第一階梯
第5章 スコトゥスの基本概念についての説明
第6章 存在の一義性―第二階梯
第7章 個体化論の問題
第8章 普遍論争
第9章 中世哲学の結実
終 章 中世哲学の構図

 

山内志朗
1957 -
トマス・アクィナス
1225 - 1274
ドゥンス・スコトゥス
1266? - 1308
ウィリアム・オッカム
1287 - 1347