読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ミア・チノッティ『カラヴァッジオ 生涯と全作品』(原著 1991, 森田義之訳 岩波書店 1993)34×28cm

カラヴァッジオ研究の権威ミア・チノッティの学術書ミケランジェロ・メリージ,通称カラヴァッジオ:全作品』(1983)を一般向けに平易に書き直し再構成されたもの。年代順にカラヴァッジオの生涯と作品を追っていく堅実な作家論であり画集でもある。カラー図版110点(部分図版が含まれる)、モノクローム図版は真作全作86点、帰属作品23点と、ミア・チノッティのテキスト、その他専門的な文献案内などから成り、カラヴァッジオの全体像をつかむのに適した一冊。

テキスト部分に関しては、多くの不品行や暴力傷害事件と逮捕投獄と保釈や脱走、乱闘殺人事件と死刑宣告の後の逃避行など、波乱に満ちたカラヴァッジオの劇的生涯と、新時代を切り開く劇的構成と新しい色彩の感覚を持った作品の数々をもとに書かれているのだが、一般読者の関心を惹くには叙述がちょっと単調かなと感じた。生涯の出来事よりも作品自体の研究に重きが置かれていることは納得できもするが、カラヴァッジオ本人によるレプリカを含む同一系統の作品のどれが真作かというところにこだわりが強かったり、カラヴァッジオ作品に関わるほかの作家の作品との影響関係が解説されているわりには、ほかの作家の作品の図版が全く収録されていないために比較しようにも本書だけでは無理だったり、どちらかといえば、一般向けにはあまり必要でない英文記載の文献案内のページにっ参考図版を載せてもらったり、カラヴァッジオの年譜と関連美術史を載せてもらったりしたほうがよかったのではないかと思ったりもした。碩学のミア・チノッティからしてみれば、より詳しく知りたい場合には、調べる手立ては付けてあるので、各自調べるようにと考えてもいたのであろう。現在であればスマホ片手に調査しながらゆっくり自分なりに読み進めていくことも可能だ。

カラヴァッジオの図版に関しては、テキストの進行とはすこしずれたページに該当作品があるところが少し残念だが、カラーとモノクロともに年代順に並べられているので、図版単独で見返したりする場合でも、時代ごとの傾向や、同一モデルが再出現する場合の描き分けられ方、真作と真作に続いて描かれたレプリカやヴァージョン違いとの間の作品テイストの違いなどが見て取りやすく、気持ちがよい。版型も大きく、経年劣化によるひび割れのような細かいところまで判別できるので、鑑賞の充実感満足感は高く、あくまで画集として図版を鑑賞するためだけであっても、本書を一度手に取ってみることをお勧めする。

www.iwanami.co.jp

【目次】

少年時代と青年時代:1571-1592年
ローマへの移住と初期の作品:1592-1598年
公的な大作と成熟のローマ時代:1599-1603年
マルケへの旅:1603年10月-1604年1月
ローマへの帰還:1604年1月-1606年5月
ラツィオへの逃亡:1606年6月-9月
ナポリでの活動:1606年10月-1607年7月
マルタ島への移住:1607年7月-1608年10月
マルタ島からの逃亡とシチリア滞在:1608年10月-1609年10月
ナポリへの帰還とポルト・エルコレでの最期:1609年-1610年7月18日

全作品カタログ
 真作/帰属作品/消失作品
文献
索引

【付箋箇所】
33, 41, 65, 80, 130, 159, 170, 179, 185, 188, 189,

ミケランジェロ・メリージ(通称カラヴァッジオ
1571 - 1610
ミア・チノッティ
1944 - 
森田義之
1948 -