読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

著・監修:宮下規久朗『カラヴァッジョ原寸美術館 100% CARAVAGGIO!』(小学館 2021)30×21cm

「原寸美術館」シリーズの第7弾。カラヴァッジョの代表的作品30点を、原寸含むカラー図版とカラヴァッジョを専門とする美術史家宮下規久朗の解説で案内する。原寸や通常の画集よりも縮尺の比率が大きい図版で見ると、カラヴァッジョの油彩の技術の高さと表現の迫真力に驚き、惹きこまれる。さらには、図版の解像度の高さから、ほかの画集では見て取ることのできなかった細部の表現までしっかりと鑑賞することができるため、作品への想いがより大きくなるのを感じる。小さかったり暗かったりで見えなかったものが見えてくると、作品の魅力がよりいっそう増してくるのだ。

見えてきたものは、
・「バッカス」の画面左下のワインのカラフェに映り込んでいるカラヴァッジョの顔
・「改悛のマグダラのマリア」の右頬をつたう涙のしずく
・「聖マタイの召命」の左端でうつむくマタイと思われる若者の影のなかにある思いつめたまなざしの表情
・「エマオの晩餐〔ロンドン〕」のキリストの象徴としての「魚」のかたちになっている果物籠の影
・「ラザロの復活」の闇に隠れてほとんど見えないキリストの横顔のかたち

そのほか、部分を切り出して人物の顔を並べて見せているところも、作品自体とは違った切り口で、画面のなかの人々の関係性を取り上げ見せてくれて、描かれた場面の劇的効果が増して見えてくるようで、ハッとさせられる。

現物をそれが本来飾られている場所で鑑賞するのが最もよい鑑賞法であるという宮下規久朗の言葉はよくわかるものではあるが、外出も人込みもできることなら避けたいと思っている私のような人間は、本書収められた実寸により近い迫力のある図版を、手元で好きなだけ眺めていることができるということでも十分満足することができる。解説の文章の存在よりも作品自体を見ることに重点を置いた鑑賞者の感性を直接刺激する教育的なシリーズの一冊。

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【目次】

カラヴァッジョ体験の醍醐味 宮下規久朗

第1章 初期の作品
  果物籠
  病めるバッカスバッカスとしての自画像)
  果物籠を持つ少年
  リュート弾き
  バッカス
  改悛のマグダラのマリア
  ホロフェルネスの首を斬るユディト
第2章 ローマでのデビュー 
  聖マタイの召命
  聖マタイの殉教
  聖マタイと天使
  聖ペテロの磔刑
  聖パウロの回心〔第1作〕
  聖パウロの回心〔第2作〕
第3章 ローマでの爛熟
  勝ち誇るアモール
  エマオの晩餐〔ロンドン〕
  キリストの捕縛
  キリストの埋葬
  聖母の死
  ロレートの聖母
  蛇の聖母(パラフレニエーリの聖母)
第4章 逃亡からマルタへ
  エマオの晩餐〔ミラノ〕
  慈悲の七つの行い
  キリストの笞打ち
  洗礼者ヨハネの斬首
第5章 シチリアと最期 
  聖ルチアの埋葬
  ラザロの復活
  羊飼いの礼拝
  聖アンデレの殉教
  聖ウルスラの殉教
  ダヴィデとゴリアテ

カラヴァッジョ作品と観者 宮下規久朗

ミケランジェロ・メリージ(通称カラヴァッジオ/カラヴァッジョ)
1571 - 1610
宮下規久朗
1963 -