読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

江川隆男『存在と差異 ドゥルーズの超越論的経験論』(知泉書館 2003)

超越的な規範としてのモラルから、生に内在する生を肯定する力としてのエチカへの転回。

ドゥルーズの著作の中では特異なスタイルで書かれた『カントの批判哲学』に関して、カントは自分にとっての敵であったがゆえにほかの著作とは異なるスタイルとなったといった趣旨の発言を行ったドゥルーズの哲学の全貌を、単なる受容ではない能動の契機をはらんだところの新たな感性論を形成することでカントの批判哲学をやり直す哲学として描き上げた論考が、江川隆男の初の単著であるところの本書である。

カントの現象の一義性の思考に対するに、ドゥンス・スコトゥススピノザニーチェに見られる存在の一義性の思考、とりわけスピノザの思考を参照するドゥルーズに倣い、江川隆男自身もスピノザ論とも受け取れるようなくらいにスピノザの思想を論じている。ドゥルーズの思想のもつ意味がドゥルーズ半可通の読者に対しても極めて明瞭に示されるたいへん刺激的な論考で、江川隆男自身ののちの思想展開をも予想させる書物であり、42歳にしての処女作として濃密な議論が展開される書物である。

機会があるごとに繰り返し開いてみたくなる書物であり、批判の対象となっているカントの著作であれ論じられている対象についての新しい読書の際に導き手であり伴走者となってくれそうな書物である。

www.chisen.co.jp

【目次】
0 永遠の非従属のために――〈反‐実現〉論に向けて

第Ⅰ部 思考の生殖

 第一章 批判と創造の円環
  Ⅰ 〈エチカ〉――いかにして反道徳的思考を獲得するか――
  Ⅱ 問う力をもつ問題――新たなる批判哲学の課題について――
  Ⅲ 一触即発の〈今〉――-超越論的経験論の諸条件――
  Ⅳ 〈非歴史的性の雲〉に躓くなかれ――超越論的なものの発生的諸要素――

 第二章 超越論的経験論の問題構制
  Ⅰ 使用と行使について
  Ⅱ 感性の行使とは何か――思惟的に感覚しない仕方で――
  Ⅲ 超越論的経験論の意義
  Ⅳ 諸能力の非共可能な発――超越的想像力を中心に――

 第三章 逆‐感覚と発生の問題
  Ⅰ 逆‐感覚の第一の特徴――〈より少なければ、それだけより多く〉――
  Ⅱ 逆‐感覚の第二の特徴――〈より離接的であれば、それだけより十全に通じ合う〉――
  Ⅲ 逆‐感覚の第三の特徴――〈より判明であれば、それだけより曖昧な〉、あるいは〈より明晰であれば、それだけより混乱した〉――
  Ⅳ 逆‐感覚の第四の特徴――〈スピノザ、あるいはディオニュソス的思考者の感覚〉――
  Ⅴ 二つの多様体(一)――その還元不可能な非対象性――
  Ⅵ 二つの多様体(二)――その和解不可能な〈生存の様式〉――
  Ⅶ 潜在的〈観念〉の図式論

第Ⅱ部 存在の転換

 第四章 存在の一義性の〈実在的定義〉
  Ⅰ 〈存在〉という一義的なものについて
  Ⅱ 存在の一義性の〈名目的定義〉から〈実在的定義〉へ
  Ⅲ スコトゥスにおける存在の一義性
  Ⅳ 超越概念の一義性から超越論的概念の一義性へ――カントの革新性――
  Ⅴ スピノザの存在の一義性
  Ⅵ 可塑的原理としての一義的〈存在〉
  Ⅶ 永遠回帰――〈実在的定義〉と〈超越論的圏閾〉との絶対的一致――

 第五章 〈反‐実現〉論
  Ⅰ 〈生〉と受動的綜合をめぐって
  Ⅱ 生ける現在における〈存在〉――時間の第一の綜合――
  Ⅲ 純粋過去における〈存在〉――時間の第二の綜合――
  Ⅳ 超越的記憶について――〈想起サレルベキモノ〉を反‐実現する能力――
  Ⅴ 時間の第三の綜合――〈リゾーム‐時間〉――
  Ⅵ 超越的感性について――強度の問題――
  Ⅶ 永遠回帰としての〈未来〉における存在
  Ⅷ 新たな自己原因――〈反‐実現の原因〉(causa contra-efficiens)――

あとがき――再開するために――
 

【付箋箇所】
6, 9, 10, 11, 14, 15, 17, 18, 21, 25, 28, 29, 31, 35, 38, 48, 50, s63, 69, 106, 108, 132, 137, 143, 148, 157, 158, 162, 165, 166, 168, 176, 177, 182, 185, 187, 190, 192, 197, 199, 200, 202, 204, 205, 208, 211, 213, 217, 219, 226, 228, 230, 233, 236, 238, 239, 240, 244, 246, 249

江川隆男
1958 - 
ジル・ドゥルーズ
1925 - 1995
バールーフ・デ・スピノザ
1632 - 1677
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ
1844 - 1900
イマヌエル・カント
1724 - 1804