読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

山口晃『親鸞 全挿画集』(青幻社 2019)

五木寛之作『親鸞』三部作の新聞連載時に挿画として書かれた全1052点に、山口晃の書下ろし絵解きコメントをつけた全696頁におよぶ大作。カット、漫画、版画調あるいは判じ絵などの様々な表現技法によって、その時々の作画情況と該当するテキストの解釈下で、挿絵の域を超えて現代作家としての山口晃が主張している。
主要登場人物の顔を描いてはいけない、同じものを描きつづけてはいけないなど、依頼主である新聞社と五木寛之によって制約を課せられたなかで、いかに長期連載の毎日の挿絵を表現していくか、プロフェッショナルとしての意地と遊びと混乱が見られて、そのなかに画家としての技量も幅広く見られて、かなり面白い。
2008年、2011年、2013年と回を重ねるたびに、制約が多くなる半面、打開の表現が大胆というか不埒になっているところが、見どころか。注文主の新聞社や五木寛之が、本文イメージとはかけ離れた挿画を許容して、最後まで奔放さの一側面を支持しているところにも懐の広さを感じた。
親鸞やほかの登場人物については、五木寛之の作品自体が虚実入り混じったスペクタクル風の物語であり、山口晃はさらにひねりを加えて戯画的に表現していることが多いので、素直にそのイメージは受け取れない。あくまで虚構の親鸞やその他の者として享受すべきものであろうと思う。それよりも、選別なしに掲載された大量の作品から、日本の現代絵画の一つの傾向を感得できることのほうが有意義なのではないかと思った。

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山口晃
1969 - 
五木寛之
1932 - 
親鸞
1173 - 1263