読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ベルトルト・ブレヒト『転換の書 メ・ティ』(績文堂出版 2004)

ベルトルト・ブレヒト(1898-1956)が墨子(メ・ティ)に自身を仮託して織り上げていった断章形式の未完の書物。墨子の名を冠してはいるが本家墨子とは似ていない。1934年から1951年にかけて継続的に書かれたものが多く、最晩年までの断章を含む本書の内容は、左翼革命とヒトラーファシズムに関する世俗批評的なものを中心に、ブレヒトと愛人ルート・ベルラウとの交流に関する記述の比重も大きく、理論書や批評の書というよりも小説として読んだほうがしっくりくる。登場する人物にはすべて中国人名があてられているが、実際にはヘーゲルマルクスエンゲルスレーニンスターリントロツキーヒトラーなどを想定した人物で、巻末には人名対照表があてられ、訳注で記述の背景などの情報も補強されているのだが、ストーリーのない断章形式であるがために作品の全体像を明瞭にとらえることはなかなか難しい。現実との対比ということ言えば中国名にルビを振って想定される人物を指示してもらうとわかりやすいかもしれないが、原典にはないことなのでそこまでするのはやりすぎなのかもしれない。ブレヒトの詩人としての才能のきらめきと、実際の人物を想定しないでも効いている批評家的観察と発言を、拾い読みするような読み方のほうが適しているだろう。

メ・ティは官僚を憎んでいた。だが、かれらから免れるには、すべてのひとが官僚になる以外にどんな方法もありえないことを、かれは認めていた。

現実の困窮や混乱を明晰に見ながら、変革の困難も知り、かといって絶望することもなく、ほのかなユーモアを交えて表現をつづけたブレヒトの志向は本書にも息づいている。

【付箋箇所】
34, 53, 71, 95, 97, 107, 143, 160, 170, 175, 186, 191, 201, 238, 268298, 344, 

ベルトルト・ブレヒト
1898 - 1956
石黒英男
1931 - 2010
藤猛
1936 -