読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

渡邊二郎『芸術の哲学』(ちくま学芸文庫 1998, 放送大学 1993)

ハイデガー研究者による芸術哲学概論。芸術作品の成立根拠を心のはたらきに帰する近代の主観主義的美学を批判し、ハイデガーが強調した生や歴史における真理の生起に焦点を当てる存在論的美学の流れを称揚するテクスト。作品は真実を露呈させるための発見的装置であるという捉え方から虚構について積極的に論じているところが興味深い。アリストテレスニーチェハイデガー、ガダマーと存在論的美学の系譜をたどり、芸術を求める心理についてフロイトユングの論説を参照したのち、生の苦悩と葛藤からの救いの道とするショーペンハウアーの芸術観にさかのぼり、さらに近代美学を確立したカントの『判断力批判』に立ち返ってカントの美と崇高の概念を再確認し評価しなおすという流れで本書は展開されている。いささか偏った芸術哲学概論ではあるが、著者のスタンスがはっきりしているので、肯定的にであれ批判的にであれハイデガーの芸術論に重点を置いて検討したい場合には取り組みやすい資料になるだろう。

 

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【目次】
1 技術における虚構と真実
2 アリストテレスの『詩学
3 ミメーシス、カタルシス、ハマルティア
4 ニーチェの『悲劇の誕生
5 ディオニュソス的なものとソクラテス主義
6 ハイデッガーの芸術論(その1)
7 ハイデッガーの芸術論(その2)
8 ガダマーの芸術論
9 フロイトの詩人論
10 ユングの詩人論
11 ショーペンハウアーの世界観
12 芸術の慰めと苦悩の現実
13 カントの『判断力批判』(その1)
14 カントの『判断力批判』(その2)
15 カントの『判断力批判』(その3)

【付箋箇所】
28, 33, 81, 92, 100, 149, 152, 174, 179, 181, 183, 186, 192, 198, 200, 205, 206, 207, 208, 212, 214, 216, 217, 218, 221, 320, 330, 336, 340, 375, 406, 414

渡邊二郎
1931 - 2008

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