読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

美学

ジャン=フランソワ・リオタール『崇高の分析論 カント『判断力批判』についての講義録』(原著 2015 , 訳:星野太 法政大学出版局 2020)

カント『判断力批判』の第23節から29節までの崇高の分析論を中心に、美と崇高、理性と悟性と構想力と判断力について論じたリオタール晩年の講義録。『純粋理性批判』『実践理性批判』との関係性に目を配りながら、それぞれの批判書のアンチノミー(二律…

渡邊二郎『芸術の哲学』(ちくま学芸文庫 1998, 放送大学 1993)

ハイデガー研究者による芸術哲学概論。芸術作品の成立根拠を心のはたらきに帰する近代の主観主義的美学を批判し、ハイデガーが強調した生や歴史における真理の生起に焦点を当てる存在論的美学の流れを称揚するテクスト。作品は真実を露呈させるための発見的…

マルティン・ハイデッガー『芸術作品の根源』(原著 1960, 訳:関口浩 平凡社ライブラリー 2008)

存在するものの真理を生起するものとしての芸術作品、世界と大地との間の闘争としての芸術作品。ハイデガーの用いる「真理」という概念については訳者後記でも強調されているように「空け開け」「アレーテイア」「不伏蔵性の領域」という意味でもちいられて…

ジョルジョ・アガンベン『思考の潜勢力 論文と講演』(原著 2005, 訳:高桑和巳 月曜社 2009)

アガンベンの単著に入っていない論文の集成の書の翻訳。全21篇。 総ページ数500超で、造本も背表紙の厚さを見るといかついが、アガンベン思想の全体的枠組みを体感するのにはもってこいの著作。いずれかの単著を読み終えたのち、広範な領域にわたるアガ…

アビ・ヴァールブルク『ヴァールブルク著作集 別巻1 ムネモシュネ・アトラス』(ありな書房 2012 著:伊藤博明+加藤哲弘+田中純、企画構成:石井朗)

記憶と今現在のあいだに生み出される新しいバランス。 古いものを知っていないことの危うさが読みすすめるごとに深く深く突き刺さってくる。西洋美術史の奥行きに驚かされる論考。 www.hanmoto.com 【目次】序 アビ・ヴァールブルクと『ムネモシュネ・アトラ…

アビ・ヴァールブルク『ヴァールブルク著作集 別巻 2 怪物から天球へ―講演・書簡・エッセイ―』(ありな書房 2014 訳/著:伊藤博明+加藤哲弘、企画構成:石井朗)

アビ・ヴァールブルクはドイツの美術史家でイコノロジー(図像解釈学)の創始者。パノフスキーに影響を与え、カッシーラーとも交流が深かった(三人ともにユダヤ系ドイツ人)。 以前から気にかかっていた人物であったが、ジョルジョ・アガンベンの著作でよく…

ジョルジョ・アガンベン『ニンファ その他のイメージ論』(編訳:高桑和巳 慶応義塾大学出版会 2015)

日本独自編集のアガンベンの芸術論集。絵画が中心で、映画と演劇とダンスが少々配合されている。全20篇。こういった著作では著者の論考そのものも楽しみであるのはもちろんだが、自分の知らない作家に出会えることの喜びもある。本書では日本ではあまりな…

ジョルジョ・アガンベン『中身のない人間』(原著 1970, 訳:岡田温司+岡部宗吉+多賀健太郎 人文書院 2002)

アガンベン28歳の時の処女作、芸術論。ベンヤミンに多大な影響を受け、驚くべき博識を支えに、潜勢力を重視する独自の思考を組み上げていくアガンベンのはじまりの著作。 芸術家と鑑賞者にともに存在する批評的意識、芸術と芸術に関わる自分自身を解体しつ…

アレックス・マリー『ジョルジョ・アガンベン』(原著 2010, 高桑和巳訳 青土社 シリーズ現代思想ガイドブック 2014)

現代イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの入門書で、イギリスで「ラウトリッジ・クリティカル・シンカーズ」(ラウトリッジ批評的思想家)シリーズとして刊行されているものの日本語訳、というところが少し変わっている。アガンベンと言えば普通はホモ…

レッシング『ラオコオン ―絵画と文学との限界について―』(原著 1766、斎藤栄治訳 岩波文庫 1970)

どちらかといえば文章読本的な比較芸術論。空間展開する絵画彫刻作品と時間展開する文芸作品の表現の志向性の違いを説いている。 レッシング自身が劇作家であり詩人でもあるため、ギリシアローマの古典作品を取り上げて技巧を評価しているところがもっとも読…

エルヴィーン・パノフスキー『芸術学の根本問題』(原著 1964, 1974, 細井雄介訳 中央公論美術出版 1994)

最初に哲学書房(1993)、のちに筑摩書房より文庫化(2009)された『<象徴形式>としての遠近法』を含むパノフスキーの代表的な美術論集。 ひとつの文章が長くて、内容自体も凝縮されたものであるために、じっくり根気よく付き合っていかないと読み通すのが難し…

小田部胤久『芸術の条件 近代美学の境界』(東京大学出版会 2006)

「美学」という学問とともに誕生した「芸術」という近代的概念について、主にドイツ近代の美学の歴史の研究から解釈していこうとするのが本書の狙いとするところ。章題ともなっている「所有」「先入見」「国家」「方位」「歴史」という切り口から美学の政治…

星野太『美学のプラクティス』(水声社 2021)

主著『崇高の修辞学』(月曜社 2017)から4年、2010年から2019年までのあいだに発表してきた単独の論文やエッセイを「崇高」「関係」「生命」という3つのテーマのもとに集めてリライト・再編集して出来上がった美学論集。芸術作品そのものを語るより…

小田部胤久『美学』(東京大学出版会 2020)

しっかり学ぶと人生がちょっと変わってしまうであろうことを予感させる美学の教科書。 カントの『判断力批判』の第一部を詳細に解説しながら、関係する先行作品と現代にいたるまでの後続の美学一般の論考に言及し、カントの論考の深さと広さを伝えてくれる優…

ジャン・ラコスト『芸術哲学入門』(原著 1981, 1987 阿部成樹訳 白水社 文庫クセジュ 2002)

プラトン、カント、ヘーゲル、ニーチェ、ハイデガー、メルロ=ポンティの芸術哲学の本流ともいえる流れを基本に、アラン、ショーペンハウアー、ボードレール、ヴァレリー、バシュラールなどの彩り豊かな芸術論者を配する、西欧芸術論を概観するのに優れた軽…

ロラン・バルト『美術論集 アルチンボルドからポップ・アートまで』(原著 1982, 沢崎浩平訳 みすず書房 1986)

再読。 二十数年ぶり。 当時と今とで最も変わったことは、ネット環境の充実によってバルトが論じている作家の作品を手軽に高解像度で閲覧できるようになったこと。 図版が十分でなくとも、スマホ片手に検索しながら、バルトが見ていたであろうものを確認しつ…

ジョルジュ・ブラック『昼と夜 ジョルジュ・ブラックの手帖』(原著 1952, 藤田博史訳 青土社 1993)と新潮美術文庫43串田孫一解説『ブラック』(新潮社 1975)

ブラックの『昼と夜』は、1917年から1952年まで、画家35歳から70歳まで折に触れて手帳に書かれたアフォリズム176篇を集めて書籍としてまとめられたもの。 ブラックは祖父の代からの建築塗装業を営む家系に生まれ、15歳で日中学校に通う傍ら…

ミシェル・テヴォー『誤解としての芸術 アール・ブリュットと現代アート』(原著 2017, 杉村昌昭訳 ミネルヴァ書房 2019)

ミシェル・テヴォーはジャン・デュビュッフェが1976年にローザンヌに設立したアール・ブリュット・コレクションの初代館長を26年間にわたって務めた人物。ローザンヌ大学を卒業後、フランス社会科学高等学院に学んだ秀才で、本論考にも見られる視野の…

ユセフ・イシャグプール『現代芸術の出発 バタイユのマネ論をめぐって』(原著 1989, 法政大学出版局 川俣晃自訳 1993) 付録「スーラ―分光色素(スペクトラール)の純粋性」(1991)

テヘラン出身パリ在住の哲学者による現代絵画論二本。 マネ論「現代芸術の出発」は、バタイユのマネ論を主軸に、油彩技法の革新者であるファン・エイクから、現代絵画をはからずも切り拓いたマネの絵画技法に至る流れを、より俯瞰的に示したエッセイ。マネの…

鈴木大拙『禅八講 鈴木大拙最終講義』(編:常盤義伸、訳:酒井懋 角川選書 2013 )

遺構の中から鈴木大拙晩年の講演用英文タイプ原稿を翻訳編集した一冊。文化の異なるアメリカ聴衆向けに書かれた論考は、仏教文化や仏教的教養から離れたところにいる現代日本人にとっても分かりやすく刺激的な内容にあふれている。そこに的確な訳注と編者に…

カンディンスキー+フランツ・マルク編『青騎士』(初版 1912 ミュンヘン, 白水社 岡田素之+相澤正己訳 新装版 2020)芸術あるいは造形物のフォルムの内的必然性

創刊号だけに終わってしまったが後の世に大きな影響を与えた美術年刊誌『青騎士』の日本語訳復刻本。第一次世界大戦の勃発と主筆の位置にいたカンディンスキーの頑張りすぎが祟って第二巻以降は発行されずにグループとしての青騎士自体も離散消滅してしまっ…

ジャン=リュック・ジリボン『不気味な笑い フロイトとベルクソン』(原著 2008, 平凡社 原章二訳 2010)

ベルクソンの『笑い』とフロイトの『不気味なもの』の並行した読み解きで、二つのテクストを共振させ、知的刺激をより広範囲に波及させようとする試みの書。途中からグレゴリー・ベイトソンの『精神の生態学』のなかのメタメッセージとして働く「枠」の考察…

アラン・コルバン『静寂と沈黙の歴史 ルネサンスから現代まで』(原著 2016, 藤原書店 小倉孝誠+中川真知子訳 2018 )

「感性の歴史家」ともいわれているアラン・コルバン、題名と本のたたずまいに魅かれて試し読み。『草のみずみずしさ 感情と自然の文化史』と迷ったが、どちらかといえばメジャーな分野を対象にしたものからという判断で、こちらから参入してみる。 内容的に…

マリオ・プラーツ『官能の庭Ⅰ マニエーラ・イタリアーナ ルネサンス・二人の先駆者・マニエリスム』(原書 1975, ありな書房 2021)

本書は1993年にありな書房から訳出刊行されたマリオ・プラーツの芸術論集『官能の庭』の分冊版の第一巻。全五冊の刊行が予定されている。分冊再刊行にあたっては監修者の伊藤博明により一部論考の差し替えと翻訳の再検討が行われているようだ。一冊の本…

アラン・バディウ『思考する芸術 非美学への手引き』(原書 1998, 坂口周輔訳 水声社 2021)

訳文の中に出てくる「免算」という見慣れない語彙に引っ掛かった。 「免算」だけでは検索でヒットしなかったので、「免算 数学」と「免算 バディウ」で検索したところ、科学研究費助成事業データベースに導かれていった。 アラン・バディウの数学的存在論と…

エルヴィン・パノフスキー『<象徴形式>としての遠近法』(原書 1924/25, 哲学書房 1993, ちくま学芸文庫 2009)

哲学者の木田元に、専門分野ではないにもかかわらず自ら翻訳しようとまで思わせた魅力的な研究書。美術史家パノフスキーが近代遠近法の成立過程と意味合いを凝縮された文章で解き明かす。日本語訳本文70ページ弱に対して、原注はその二倍を超えてくる分量…

アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン『美学』(原書 1750/58, 玉川大学出版部 1987, 講談社学術文庫 2016)

美学はじまりの書。西欧古典をベースに展開される感性的な領域にかかわる教養についての学問書。美学あるいは感性の学が扱うべき範囲を調査整理しながら、古典作品の具体例を伴った美的領域への導きとなる指導書という感触がある。おもにギリシア、ローマの…

西村清和『幽玄とさびの美学 日本的美意識論』(勁草書房 2021)

美学者による幽玄とさびの概念分析。明治以降の西洋近代化の過程で再発見された日本的美についての言説の行きすぎをいさめつつ、個々の作家、作品、評釈を読み直すことで、実際に使用される言葉の用法からおのおのに込められた美意識を拾い、その適用範囲を…

ディルタイ『近代美学史 ―近代美学の三期と現代美術の課題―』(原書 1892 岩波文庫 1960 )

摸倣論とは一線を画する美学。 現実の模写のみを事とする人達は聡明な人。卓れた観察者ならば彼を俟たずとも知つてゐるもの以外に何ひとつ教へはしない。彼等は疾うに芸術の言葉で語られたことを繰返す観念論者と大差はない。両者に生存の権利を与へるのもの…

エルヴィン・パノフスキー『イデア 美と芸術の理論のために』(原書 1960, 平凡社ライブラリー 2004)

美学におけるイデアの位置と神学における神の位置の歴史的な並行性を感じさせてくれた作品。パノフスキーの『イデア』は美と芸術の側のイデアの位置の描出をしているだけで、神学側の神の位置の歴史的変遷を語っているわけではないのだが、私がよく読ませて…