読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

小田部胤久『西洋美学史』(東京大学出版会 2009)

先の連休中に読んで感銘を受けた優れた教科書、導入書。特に簡明を絵にかいたような黒板書きみたいな掲載図には心打たれるものがある。実際の大学の授業で説明の言葉とともに掲載図と同質の黒板書きに出会ったら、より深くお教えを乞いたいと思わずにはいられないような知の歴史の凝縮された姿がある。「形相(or 形式)」と「質料(or 素材)」の関係から創作と創作者の位置を、歴史的な論者とその現代的な展開をしている研究者に目配せを利かせつつ、現代まで基本暦年形式でたどってくれている。図書館から借りて読了済みとなった書籍ではあるのだが、手元において何かあった時には参照したいというおもいを抱かせてくれる優れた書物である。東京大学出版会刊行、本体価格2800円。もし機会があれば、つまみ食いだけでもぜひともしていただきたい一冊。昨晩私は久方ぶりに手書きでノートをとっていた。B4ノートわりとびっしり4ページ、所要時間約2時間。一度では全部身につかない情報量であると、書きとりながらあらためて感じたが、まあ、何かしら痕跡が残ってくれさえすればそれでよい。

さて、ここは手書きではない電脳の世界。小田部胤久『西洋美学史』は優れた読書案内の書でもあるのでそちらの情報をメモさせていただく。

 

【読書案内メモ:論考本文から気になる人と本をピックアップ(基本的に章の中心人物以外)】

第一章 知識と芸術――プラトン
 ホワイトヘッド『過程と実在』、プラトン『イオン』『ゴルギアス』『国家』

第二章 芸術と真理――アリストテレス
 アリストテレス詩学』、アドルノ『美学理論』、西村清和『現代アートの哲学』

第三章 内的形相――プロティノス
 エルンスト・カッシーラー『英国のプラトンルネサンス

第四章 期待と記憶――アウグスティヌス
 ガーダマー『真理と方法』、ヤウス『挑発としての文学史』、ポール・リクール『時間と物語』

第五章 制作と創造――トマス・アクィナス
 ヒューム『人間知性論』、バーク『崇高と美の観念の起源についての哲学的考察』、コウルリッジ、ベルクソン

第六章 含蓄のある表象――ライプニッツ
 ヘルダー、エルンスト・カッシーラー啓蒙主義の哲学』

第七章 方法と機知――ヴィーコ
 アイザイア・バーリンヴィーコとヘルダー』

第八章 模倣と独創性――ヤング
  T・S・エリオット「伝統と個人の才能」、ノースロップ・フライ『批評の解剖』

第九章 趣味の基準――ヒューム
 ブルデューディスタンクシオン』、ガーダマー『真理と方法』

第一〇章 詩画比較論――レッシング
 クレメント・グリーンバーグモダニズムの絵画」、レンサレアー・W・リー『詩は絵のごとく』

第一一章 自然と芸術I――カント
 伝ロンギノス『崇高について』、アドルノヴェーベルンジンメルヴェネチア」ほか、大西克礼『美学』

第一二章 遊戯と芸術――シラー
 プラトン『法律』、ハーバーマス『近代の哲学的ディスクルス』、テリー・イーグルトン『美のイデオロギー

第一三章 批評と作者――シュレーゲル
 ロラン・バルト「作者の死」、ベンヤミン『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』、浅沼圭司『象徴と記号』

第一四章 自然と芸術II――シェリング
 リオタール『非人間的なもの』、ツヴェタン・トドロフ『象徴の理論』

第一五章 芸術の終焉I――ヘーゲル
 竹内敏雄訳のヘーゲル『美学』全9冊

第一六章 形式主義――ハンスリック
 クレメント・グリーンバーグアヴァンギャルドキッチュ」、ジンメル社会学的美学」、アドルノ『美学理論』、アンリ・フォシヨン『かたちの生命』
 
第一七章 不気味なもの――ハイデガー
 メルロ=ポンティセザンヌの懐疑」、渡邊二郎『芸術の哲学』、大澤真幸『「不気味なもの」の政治学

第一八章 芸術の終焉II――ダントー
 ヴェルフリン『美術史の基礎概念』

 

西洋美学史 - 東京大学出版会

【付箋箇所】
ⅰ,ⅶ, 10, 18, 21, 25, 32, 36, 47, 56, 67, 92, 103, 112, 124, 127, 129, 136, 147, 151, 152, 166, 167, 173, 175, 184, 195, 201, 203, 212, 225, 228, 236, 239

 

小田部胤久
1958 -