存在するものの真理を生起するものとしての芸術作品、世界と大地との間の闘争としての芸術作品。ハイデガーの用いる「真理」という概念については訳者後記でも強調されているように「空け開け」「アレーテイア」「不伏蔵性の領域」という意味でもちいられているということを念頭に置いて置いたほうがよい。また「芸術作品の根源」として或る民族の歴史的現存在ということが強調されているが、民族云々に関しては今現在の感覚からすると強調されすぎていると感じるところもあると思う。
芸術とは本質的には詩作であるということでヘルダーリンなどの詩が最も本質的なものとして最終的に引用され論じられてはいるが、本書のカバー図版でもあるゴッホの「靴」について言及しているところが実際には最もよく知られている部分であろう。今回久しぶりに本書を読み直してみて、芸術は歴史のうちにあらわれるということが、このゴッホの靴の絵に関するところでわりとよく感じ取れたのではないかと考えている。時代的には19世紀末になって描かれた一組のくたびれた皮の紐靴は、その当時の農夫の労働の真理を表しているというところが前回よりも印象に残った感じだ。この靴の絵は、描かれた当時すぐには評価されることはなかったが、その後の鑑賞者に真理として受け止められるような亀裂・強度を持っている。そしてその鑑賞者の中心は貴族ではなく近代のブルジョワであり、今現在さらに大衆化されるに至っているという考えが浮かんできたのであった。
【目次】
序言
1 物と作品
2 作品と真理
3 真理と芸術
後記
補遺
導入のために ハンス・ゲオルグ・ガダマー
【付箋箇所】
19, 22, 32, 44, 54, 61, 66, 73, 75, 82, 84, 108, 109, 115, 123, 128, 131, 142, 143, 153, 158, 176,
マルティン・ハイデッガー
1889 - 1976
ハンス・ゲオルグ・ガダマー
1900 - 2002
関口浩
1958 -