フランシス・ベーコンのインタビュー集も著作として持つイギリスの美術評論家・キュレーターであるデイヴィッド・シルヴェスターのジャコメッティ考察の書。ジャコメッティのモデルをつとめたことのある人物のうちでは最も美術批評っぽいテクストで、作家がモデルを見るときと画布や彫刻の素材を見るときのあいだにある無限の隔たりと作家がその隔たりに対する態度について、ジャコメッティの言葉を数多く取り上げながら美術評論家の知見をフル動員して捉えようとしているところがたいへん参考になる。また、比較的小さな書物であるにもかかわらずシュルレアリスム時代から最晩年までの彫刻と絵画まで広く論じているところや、美術批評家として各時代の作品の評価をしながらジャコメッティ自身に切り込んでいくような叙述やインタビューのスタイルも鮮やかで感心する。晩年の頭部に対する偏執が勝った絵画作品よりも40年代の調和を実現している絵画作品のほうが優れているという意見も、私自身の感覚と近く、強く印象に残った。
【目次】
まえがき
Ⅰ
消え去るものの不滅化
暗闇のなかの盲目の男
時空の円板
対立するものの関連性
ヴィジョンの残余
Ⅱ
罠
わずかな変化とともに
失敗と発見
まったく見知らぬもの
単独者の現前
静寂のようなもの
ジャコメッティ・インタビュー
注
伝記的覚え書
謝辞
訳者あとがき
【付箋箇所】
28, 38, 48, 53, 56, 65, 97, 131, 139, 173, 196, 208, 216, 222, 224, 229, 241
アルベルト・ジャコメッティ
1901 - 1966
デイヴィッド・シルヴェスター
1924 - 2001
武田昭彦
1952 -