写真の登場によって絵画における写実再現の価値下落が起こったあとの時代において如何なる表現の途が残さているのかという探究が二十世紀以降の芸術界の動向を方向づけている。本書は近代以前の慣習にとらわれない最初期印象派の画家モネの視覚と写実とのあいだを切り拓く新たな表現を起点に置いて、セザンヌ、マチス、ピカソ、ジャコメッティ、ルオーという19世紀から20世紀にかけての後戻りのきかない個性的な創作活動について言及している。見えているものの単なる模倣ではなく、見えているところのものの本質の創造的再現によって、はじめて真にあるものに肉薄することができるという思いを持つ個々の芸術家の創作過程に、にじり寄ろうとする著者の思いには共感できる。機械の発達によって実現された高度な複写の存在する世界において、単なる写実とは異なる領域を切り拓いていこうとした芸術家の個々の方向性を見て取ることを助ける著述になっているのではないかと思う。
【目次】
プロローグ 写真以後の絵画は何をするのか
第1章 「感覚の絵画」の誕生―セザンヌからマチスへ
第2章 純粋感覚とは何か―マチスからピカソへ
第3章 見えないものに向かって―ピカソからジャコメッティへ
第4章 絵画は何のために在るのか―ジャコメッティからルオーへ
あとがき
【付箋箇所】
20, 22, 38, 43, 76, 93, 138, 162, 167, 189, 210, 214, 230, 231
前田英樹
1951 -