歌人としてのデビューが1997年。それから25年、一貫して商業出版で短歌に携わってきた1968年生まれの現代口語歌人の集大成。収録歌数355首ときわめて寡作。そのわりに作風が重たいわけでもなく、作品ごとに大きな変化があるわけでもない。世界的には激動の25年といってもいい期間ではあるが、この歌人の歌には湾岸戦争もリーマンショックも東日本大震災もコロナパンデミックも存在しない。ごく身近な人間関係で生じた思いが日常的な言葉で少しアイロニカルに歌われているだけである。それで四半世紀にわたって現代の代表的歌人のひとりとして存在を示してきたことは立派ともいえるし、短歌界のひとつの時代の象徴なのであろう。この先10年20年とどう歌いつづけていくのか、読まれていくのかも興味があるところだ。
切り売りというよりむしろ人生のまるごと売りをしているつもり
※書籍で読んだ時よりも、左右社のウェブサイトで横書きの収録選歌を読んだほうが鮮烈なのは、歌の軽さに紙の単行本の体裁が追いつききれていないためであろう。たぶん文庫本になるともう少ししっくりくるはず。
枡野浩一
1968 -