短歌
モダニズム短歌の雄、前川佐美雄の最新選集。 本選集は、評価の高い青春期から壮年期にかけての『植物群』『大和』全首と、51歳の時に発表した「鬼百首」全首を核に据えた意欲的な編集構成。 1903年、明治36年生まれの歌人の同時代人には、俳人:中…
現代短歌における修辞をめぐっての内向きで軽い調子のエッセイ集。 時代の流れは凄まじく、時代のリアルを31文字に収めようとして当時は成功していたと考えられたとしても、すぐに色褪せ古臭さを感じてしまう歌がほとんどだ、という状況に唖然とさせられる…
作家町田康の初の歌集、全352首。 共感の乞食となりて広野原彷徨いありく豚のさもしさ鈍色のダサい鉄下駄突きかけて己の中の豚の餌遣り 豚に喰わせるために出した歌集だろうか。読みはじめたら豚でもあるように自覚してきたので普通に全部食してみたが、…
最寄りの図書館の歌集の棚を見ていると笹公人の歌集の開架における存在感が突出していたので気になるから読んでみた。俵万智よりも目立っているとはなにごとかという思いを自分なりに解消したいがための行動である。 念力の一語に吸収されていくような非現実…
歌人としてのデビューが1997年。それから25年、一貫して商業出版で短歌に携わってきた1968年生まれの現代口語歌人の集大成。収録歌数355首ときわめて寡作。そのわりに作風が重たいわけでもなく、作品ごとに大きな変化があるわけでもない。世界…
2009年、26歳という若さで惜しまれつつ亡くなった歌人笹井宏之。先日NHKでドキュメンタリーの特集「いまも夢のまま 15年目の笹井宏之」が放映されていたということをネット上のニュースで知り、番組自体は未見にもかかわらず、気になり歌集を手に…
塚本邦雄が案内する濃密な近現代の短詩型の世界、短歌と俳句を交互に取り上げ103の作品とその作者を紹介鑑賞している。昭和51年から52年にかけて2年間にわたって週刊の「サンデー毎日」に連載していた原稿がベース。詩歌アンソロジー編纂に長けた博…
水原紫苑の第三歌集を18年の時を経て新版再刊行したもの。文語での歌作を貫く古典派の歌人。能楽にも造詣が深く、関連する歌は本書にも多く採られている。30代最後の歌集と考えて読むと、若い感覚の歌が多い。作為を感じさせるものも結構あって、とりわ…
多田智満子(1930 - 2003)と関係の深い、文芸詩歌上の弟と自ら規定する高橋睦郎(1937-)が、故人に生前託された遺稿からの作品集刊行に応えた二冊。まず葬儀参列時に手渡された遺句集『風のかたみ』と告別式式次第に掲載された新作能「乙女山姥」があり、こち…
馬場あき子の仕事のなかでは、評論の『式子内親王』(1969年)、『鬼の研究』(1971年)のほか、謡曲に関するいくつかの本など、韻文よりも散文に接することのほうがこれまでは多かったのだが、全歌集というまとまった本を見つたのを機会に、韻文作品をひととお…
日本の詩歌は長歌と短歌からはじまって日記文学や各種物語文学そして芭蕉の紀行文へとひろがりを見せたのち西洋近代詩の影響を受けた口語自由律をも併存させるようになっているのであるから、昭和平成期歌人の岡井隆が現代的に短歌形式を取り込んだ実験的詩…
宮沢賢治は短歌から表現活動をはじめ、最晩年は病の中文語詩に集中していた。本書は、童話作品や心象スケッチ『春と修羅』などの口語作品に比べて読まれることの少ない賢治の文語作品は賢治にとってどのような意味があったのか、また、賢治の文語作品が書か…
角川刊行の月刊誌『短歌』に2013年から掲載された連載評論25回分をまとめた著作。80代後半の著述。年季が入っているのに硬直化していない探求心がみずみずしい。 長きにわたり実作者として詩歌や評論を読みつづけてきた技巧と鑑賞眼から新旧の作品を…
岡井隆75歳の年に刊行された本歌集は、未刊の最初期歌集『O』から平成20年(2008年)刊行の『ネフスキイ』までの60年31冊の歌集から約1200首を同じ短歌結社『未来』の後継世代の黒瀬珂瀾が選歌した最新アンソロジー。60歳以降の年月にあたる…
本当の修羅は修羅でない者にむかってことばを投げつけずにはいられないものなのだろう。 だから、多作が可能であり、際限のない推敲が可能となるのだろう。 50歳を過ぎてようやく納得できたのは、私自身は修羅ではないということ。 その差を確認するための…
いくつかある三好達治のアンソロジーのなかで歌集『日まわり』と句集『路上百句』を収録しているめずらしい一冊。詩人三好達治を語るには短歌と俳句を除外してはいけないというのが選者の意見。三好達治の詩論集『諷詠十二月』でも日本文芸の核となるジャン…
戦時下の昭和17年9月に刊行された「国民的詩人」三好達治の詩論集。本書では、戦時色が色濃く出ている試論であり、詩人自らの手によって削除入れ替えされる前の七月・八月を補遺として収録して、時代と三好達治自身の移り変わりも見わたせるように配慮さ…
塚本邦雄の歌論・短詩系文学論における代表作。1950~1960年代、前衛短歌運動が最も盛んだった時期の当事者による批評的営為。短詩型文学を否定した桑原武夫の『第二芸術』 (1946) へ苦い思いを抱き、口語自由詩の作者であり短詩系文学の理論家でも…
戦後の前衛短歌運動を二十一世紀にいたるまで駆け抜けた塚本邦雄を、短歌批評家としての立場から擁護し共に戦った菱川善夫による批評作品。 塚本邦雄が亡くなった2005年6月9日から二ヵ月余り、同年8月25日に刊行された追悼特集『現代詩手帖特集版 …
シングルマザーとして出産・育児をする中で詠まれた現代日本の短歌。 俵万智の第四歌集と第六歌集。 同世代の歌人のなかで途切れることなく歌集を出しつづけ、商業的にも失敗していないところはやはりすごい。 根本にある奔放さと冷徹さがすこし浮世離れして…
罌粟枯るるきりぎしのやみ綺語驅つていかなる生を寫さむとせし夢の沖に鶴立ちまよふ ことばとはいのちをおもひ出づるよすが 塚本邦雄主宰の歌誌「玲瓏」が創刊されたのが1986年(昭和61年、チェルノブイリ原発事故があった年)、邦雄66歳、島内景二31歳…
藤原定家への挑戦の書『新撰小倉百人一首』と同じ年に刊行された著作。 西欧的高踏詩を短歌に移植することに成功し塚本美学のひとつの達成点とされる1965年刊行の第五歌集『緑色研究』から、自選の100首を掲げ、歌それぞれに新たな賛としての幻想増殖…
藤原定家の小倉百人一首、源義尚(室町幕府第9代将軍足利義尚)の新百人一首に次ぐ王朝和歌選集。25年の年月をかけて書き継がれて成った新しい百人一首。選歌に付けられた縦横無尽で出し惜しみのない解説文は王朝文芸に関するすぐれた評論にもなっていて…
塚本邦雄70歳の時の自選歌集。解説の岡井隆が指摘しているように二十代から一貫して現代短歌の第一線で活躍している塚本邦雄の四十代以降の作品が95%を占める、中年から老年への軌跡を強く感じとれるアンソロジー。全1793首。今回の何度目かになる…
ニューウェーブ短歌を牽引していた荻原裕幸の第六歌集。前歌集が第五歌集『永遠青天症』を含む全歌集『デジタル・ビスケット』で2001年刊行ということで、本作は19年ぶりの歌集となる。塚本邦雄門下で前衛短歌の影響を受けた歌風で、実作だけでなく歌…
昭和26年(1951年)の生前全歌集の886首に、拾遺作品264首を新たに付加した一冊(全1150首)。文庫本で手に入りやすい『自註鹿鳴集』よりも歌人の活動期間をより広くカバーしている。活動期間のわりに詠まれた歌の数はそう多くなく、一首一首に推…
美学者による幽玄とさびの概念分析。明治以降の西洋近代化の過程で再発見された日本的美についての言説の行きすぎをいさめつつ、個々の作家、作品、評釈を読み直すことで、実際に使用される言葉の用法からおのおのに込められた美意識を拾い、その適用範囲を…
現代の日本には少なくとも三種類のpoetがいる。俳人、歌人、現代自由詩人。明治時代までであればこれに漢詩人も加わることになる。複数の専門領域に分けられる日本の詩。すみ分けて、多くの詩人が生息できることには良い面と悪い面があるだろう。その辺の事…
教養と詩才は単純な相関関係にはない。美術史家、書家として著名であることが歌人としての評価を多分に高めているのではないかというような下衆の勘繰りをめぐらせても詮無いことだが、和歌短歌の業界人ではない読者にとっては、「会津八一の歌」と言われて…
誘惑しないセイレーンがひとりつぶやくような歌。ひとたび歌の世界に入ってしまうと、静かなさみしい世界に身動きとれずに置き去りにされてしまうようで、心が弱っているときには少し危険。作者は歌いおえてしまっているが、それに応じることはなかなかむず…