読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

松浦弘明のイタリア・ルネサンス本二冊。『図説 イタリア・ルネサンス美術史』(河出書房新社 ふくろうの本 2015)、『イタリア・ルネサンス美術館』(東京堂出版 2011)

松浦弘明はイタリア中世・ルネサンス美術史を専門とする日本の美術史学者。現在多摩美術大学教授。直近の著作は河出書房新社刊『ラファエロ』(2017)か。イタリア・ルネサンスにどっぷっり浸かりたいと思わせてくれる研究者。現時点ではおそらく世間的に松浦弘明を代表するであろう二冊の単著。授業や講演に参加しているような感覚で読み進められる美術本で、どちらかといえば『図説 イタリア・ルネサンス美術史』のほうが間口も奥行きも広く、気軽に参入できる印象があった。

www.kawade.co.jp

『図説 イタリア・ルネサンス美術史』
【目次】
第1章 プロト・ルネサンス
 一三世紀のフィレンツェ絵画
 ジョットの革新
 ジョット様式の継承と展開
第2章 初期ルネサンス
 一五世紀初頭のフィレンツェ
 マザッチョの革新
 マザッチョ以降の動向
第3章 盛期ルネサンス
 ヴェロッキオ工房出身の画家たち
 一六世紀の三巨匠
 一六世紀初頭のヴェネツィア
第4章 後期ルネサンスからカラヴァッジョへ
 一六世紀前半のフィレンツェ
 一五三〇年以降のヴェネツィア
 カラヴァッジョの登場

www.tokyodoshuppan.com

『イタリア・ルネサンス美術館』
【目次】
【第1室】イントロダクション
【第2室】中世からプロト・ルネサンスへ〔1〕
【第3室】中世からプロト・ルネサンスへ〔2〕
【第4室】ジョットがシエナの画家に与えた影響〔1〕
【第5室】ジョットがシエナの画家に与えた影響〔2〕
【第6室】ジョットがシエナの画家に与えた影響〔3〕
【第7室】ジョットがシエナの画家に与えた影響〔4〕
【第8室】ジョット様式の継承者
【第9室】ジョット様式のマンネリ化
【第10室】新しい時代の幕開け
【第11室】絵画における新傾向
【第12室】初期ルネサンス絵画様式の始まり
【第13室】国際ゴシック様式と初期ルネサンス様式のはざまで
【第14室】初期ルネサンスの多様な試み〔1〕
【第15室】初期ルネサンスの多様な試み〔2〕
【第16室】初期ルネサンスの多様な試み〔3〕
【第17室】初期ルネサンスの多様な試み〔4〕
【第18室】初期ルネサンスの多様な試み〔5〕
【第19室】盛期ルネサンスへの胎動
【第20室】盛期ルネサンスの始まり
【第21室】巨匠の覚醒 
【第22室】巨匠の熟成
【第23室】ルネサンス絵画の到達点
【第24室】1470年代のフィレンツェ絵画
【第25室】巨匠たちの競演
【第26室】時代の様式への反逆
【第27室】世紀末のフィレンツェ
【第28室】新たなる天才の出現
【第29室】16世紀初頭の聖母子像
【第30室】群像表現の妙
【第31室】ルネサンス絵画の完成地点
【第32室】システィーナ礼拝堂天井画
【第33室】クラシック的表現からヘレニズム的表現へ
【第34室】「ヘリオドロスの間」の装飾
【第35室】ルネサンスの巨匠の最終課題

『図説 イタリア・ルネサンス美術史』の出版執筆の経緯は『イタリア・ルネサンス美術館』(東京堂出版 2011)を読んだ河出書房新社の編集者による出会いと要請による。核となるもものについての見識は安定したもので、鑑賞者に対していずれの著作も完全に享受者たることを疑わせないような出来栄えとなっている。

時代を追った展開は共通するものの、同一主題同一指向の繰り返しと差異をより綿密に叙述し、図版を倦まずに複数回並べた『イタリア・ルネサンス美術館』のより微細なものに焦点をあてながら時代や個性の変遷により学問的に眼を向ける姿勢と、『図説 イタリア・ルネサンス美術史』のよりダイナミックに展開するイタリア・ルネサンス期の巨匠たちの個性的世界を幅広く享受できるように配慮しながら総覧できるように配慮された構成は、ふたつながら鑑賞するに値する相補性を持っているように思えた。

『イタリア・ルネサンス美術館』の図版がすべてモノクロームであることが惜しまれるが、そのかわり絵が描かれたそのものの状態、壁画として存在している絵画の状態を写し取っている図版が数多くあり、鑑賞する時空間というものに思いを致すことを促され、人が生きる中での芸術のありかたを考えさせられる。中世から近代ルネサンスへの移り変わりの背景にある時代思想の変容が多面的かつ多層的に推移しているところを押さえていることからは、鮮やかさがありよい刺激となっている。『図説 イタリア・ルネサンス美術史』に比較すると、盛期ルネサンスミケランジェロラファエロレオナルド・ダ・ヴィンチまでで終わっていて、近代への接続に関する部分が若干薄い感じがするところが特徴でもあり気を付ける部分でもあると思う。

『図説 イタリア・ルネサンス美術史』はカラー図版が多く、プロト・ルネサンスから17世紀初頭のカラヴァッジョの作品まで、より幅広く時代の推移を色彩鮮やかに提示しているところのに特徴と価値がある。時代変遷や絵画の対象領域の広さや表現の深さや多彩さを感じるには、同著者の『イタリア・ルネサンス美術館』よりも優れているだろう。16世紀初頭から17世紀初頭にかけてのジョルジョーネ、ティツィアーノ、ブロンズィーノ、ティントレット、カラヴァッジョがいる100年を見るのと見ないのとでは世界が大いに異なる。

 

【付箋箇所】

『イタリア・ルネサンス美術館』(横書き二段組み l,r)
18l, 62, 67r, 94, 106, 117r, 137r, 140. 147l, 169r, 173r, 214l, 233, 257, 272l, 281l, 325r, 375, 393r, 396, 401r, 406l

『図説 イタリア・ルネサンス美術史』(縦書き三段組み u,m,b )
13, 18, 21, 27u, 29, 32, 38b, 40, 43b, 45, 53u, 55b, 64b, 68, 72, 74b, 83, 97b, 99u, 100, 114b, 115m, 116, 118, 132, 42u, 150, 


松浦弘
1960 -