日本画
俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一の代表的作品から選りすぐりの23点を原寸で鑑賞。室町末期から江戸末期までの日本近世絵画のなかで独特のデザイン性と高度な技巧で輝きを放っていた琳派の世界に深く入り込むことができる。展覧会に行ってもなかな…
毛利武彦の名前を知ったのは、たしか有田忠郞の詩集のなかでのこと。本書の巻頭には詩人阿部弘一の詩が寄せられており、詩人との相性が良かったことがうかがわれる。 ちなみに阿部弘一はフランシス・ポンジュのや訳者で、有田忠郎はサン=ジョン・ペルスの訳…
1.没後40年展覧会カタログ『熊谷守一 生きるよろこび』2017年 日本経済新聞社 油彩200点、日本画8点、書7点、彫刻3点、スケッチ47点、資料類13点 art.nikkei-ps.co.jp 2.柳ケ瀬画廊創業100周年記念出版『柳ケ瀬画廊の百年 熊谷芸術と…
五木寛之作『親鸞』三部作の新聞連載時に挿画として書かれた全1052点に、山口晃の書下ろし絵解きコメントをつけた全696頁におよぶ大作。カット、漫画、版画調あるいは判じ絵などの様々な表現技法によって、その時々の作画情況と該当するテキストの解…
『善信聖人親鸞伝絵』は親鸞の曽孫にあたる覚如が、親鸞没後33年の1295年に自ら詞書を染筆し完成させた伝記絵巻。絵師は不明だが、絵からはしっかりした技量が伝わってくる。寺社の室内での場面が多く、比較的動きの少ない絵巻だが、描かれている人物…
浮世絵師鈴木春信の活動期間は1760年の数え36歳から1770年に46歳で亡くなるまでの約10年間で制作点数は1000点を超える。本書にはそのなかから116点の浮世絵がカラー図版で収められている。書籍のサイズがA24取(140×148)と小さめのた…
B5判の判型に鈴木春信作品87点、比較対照用の春信以外の作者の作品20点を収めた解説本。野口米次郎や宮沢賢治が鈴木春信の浮世絵にインスパイアされて作成した詩などの紹介もあり、春信作品の特色と受容の歴史などに目配せが効いている。また使用された…
俊成、定家からつづく和歌の家、冷泉家二十五代当主冷泉為人による円山応挙論。箱入り400頁を超える堂々たる造りに、期待感と緊張感をもって手に取ったところ、100頁弱の付録冊子がついていることに虚を突かれた。どう見ても素人の手になるとしか思え…
安永天明期(1772-1789)の京都画壇で若冲や池大雅を抑えて最も人気の高かった円山応挙の画業の質の高さと幅の広さを、時代背景やパトロンの存在などとともに紹介した贅沢な入門書。改訂版では巻頭特集の「七難七福図巻」を増補。応挙の才能を見出した円満院…
八〇九年の嵯峨天皇即位から一二〇五年の『新古今和歌集』の成立までの約四〇〇年間、平安時代(794-1185)の世の移り変わりを、絵巻に表わされた場面とともに、駆け足でたどる感のある歴史書。文字表記ではなかなかリアルに現れてこない衣食住の様子や、貴…
『源氏物語絵巻』、『信貴山縁起絵巻』、『鳥獣人物戯画』と並ぶ四大絵巻物のひとつ。ジブリの高畑勲をうならせた群衆描写はやはり圧巻。ひとりひとり違う仕草、衣装、顔つきと表情が丁寧にしかも生き生きとした筆で造形されている。なかにはジブリのアニメ…
仏にはさくらの花をたてまつれわが後の世を人とぶらはば 73歳で示寂した後の世、それほど時を置かずに描かれはじめた西行の生涯を描いた絵巻で、今日に伝わる三種を収めた一冊。その絵巻三種は以下のとおり。 徳川美術館本一巻(絵:土佐経隆、詞書:藤原…
代表作『動植綵絵』全30幅を、それぞれ全図とともに4ページに数点の原寸図版を掲載して紹介する贅沢なつくりの一冊。『動植綵絵』は、実寸ではそれぞれ140×80cm程度の絹本着色の作品で、本書の売りである原寸図版で見ると若冲の繊細緻密で没入して…
山下裕二と橋本麻里、両人ともに関心のある名前ではあったので、本の背表紙に名前が並んでいるのが目に入り、手に取ってみたところアタリだった。作家としては版画家の風間サチコという名前を知れたことがいちばんの収穫かもしれない。木版画を彫って一枚し…
踊念仏の一遍(1239~1289)没後十年の1299年、弟子の聖戒が師の言行をとどめ置くために詞書を調え、土佐派系統とみられる絵師の法眼円伊に描かせた全12巻におよぶ伝記作品。人が集まる法話の様子や時衆による踊念仏の集団表現や、それらとともに画か…
明治初期に初めて日本人として本格的に油彩を受容導入した高橋由一についての人物評伝。著者のあとがきから小説風の体裁をとりたかった意向を感じ取ることができる。章立ても第何話というようになっていて、高橋由一の人物像が感覚的によく伝わる。武士の気…
絵巻四作品の全篇に拡大部分図、関連図版を配置して二十世紀のアニメーター高畑勲が絵と詞とが融合した日本に特徴的な表現を読み解いていく。絵巻全篇が省略されることなく掲載されることで、配置の妙や運動感、空間造形の深さがよりよく味わえる。美術館に…
ColBase 国立博物館所蔵品統合検索システム(URL:https://colbase.nich.go.jp/?locale=ja )というものの存在を教えてくれた一冊。作品画像がないものが少なくないが、検索して作品画像が利用できるというところは素晴らしい。公営美術館全般に広げてくれた…
鳥獣戯画を中心に、伊藤若冲、歌川国芳、河鍋暁齋、曽我蕭白、森狙仙など、小さな動物や虫たちが躍動する日本画の世界に案内してくれる一冊。優美で瀟洒な線と淡くて品の良い彩色が心を和ませてくれる。兔と蛙と雀と金魚。猫と鼠と猿と亀。祭りと遊興に励む…
日本美術の本を二冊。 矢島新『日本の素朴絵』は、先日読んだ金子信久『日本おとぼけ絵画史 たのしい日本美術』の流れで、精緻さや厳密さにはに向かわない趣味嗜好にもとづく絵画表現の紹介本として参照してみた。第一章の作者が誰かよくわからない「絵巻と…
宮下規久朗の著作を読むに関しては、不純な動機が働いている。予期せぬ時期に、突然準備なしに愛する娘さんを失って、中年にいたるまで本人を突き動かして来たであろう人生や仕事に対する価値観が、一変に崩れてしまった一表現者の仕事。現代の日本美術界に…
美の中心地域の美の中心をはずれたところに存在する日本独自の美のすがた。ゆるい、あまい、にがい、変態。正統と正面から闘う必要がないところで棲み分けができた日本の懐の深さというかだらしなさ。柄谷行人が『帝国の構造 - 中心・周辺・亜周辺』で示した…
神獣と吉祥を象徴する動物たちをモチーフにした日本画と工芸品を多数紹介してくれる一冊。日本語英語併記のバイリンガル本(英題はAuspicious Animals - The Art of Good Omens)。めでたい動物たちと日本の職人たちの優れた技術を見ることで気分がなんとな…
市場にはほとんど出回っていない書籍。興味があったら図書館で借りて観て、という一冊。 明治期の日本画と洋画の激動と受容を、傍観者的立場でも微かに通覧し、追体験することができる資料的価値の高い書籍。 日本画と洋画があることで生じた苦悩と豊饒。混…
高畑勲は言わずと知れた日本のアニメータ。私は彼の手掛けたテレビアニメを再放送で見た世代。『アルプスの少女ハイジ』『フランダースの犬』『母をたずねて三千里』など。個人的にいちばん高畑勲っぽいなと感じるのは『じゃりン子チエ』か。映画だと『ホー…
書店(BOOKOFFだけど)で手に取って棚に戻さなかったのは、図版のたたずまいがキリっとしていてチョイスもどことなく変わっていたため。表紙も横尾忠則デザインで只者ではなさそうな雰囲気はあったが、橋本治の『ひらがな日本美術史』にも通じるところのある…
抵抗者という視点から中井正一を語った一冊。理論的な骨格を描き出した「委員会の論理」(1936)とそれを広範に向けて拡張展開した「美学入門」(1951)を中心に中井の弁証法的唯物論を核に据えた論考を読み解いている。 中井正一が『美学入門』のなかで展開…
唐木順三が著書『無常』において高く評価していた一遍が気になり、入門書を手に取る。いずれも「捨てる」ことを説いた鎌倉新仏教の開祖のうち、寺を持たず、捨てようとする心も捨てるにいたったという一遍が、捨てるということにおいてはもっとも徹底してい…
クマガイモリカズ、明治十三 1880 ─ 昭和五十二 1977。「海の幸」の明治の日本洋画家である青木繁の二歳年長で、東京美術学校では同級で親友でもあったが、熊谷守一の方は戦後の作家という印象が強い。全168ページに多数の図版が収録されているが、その多…
2013年の『モチーフで読む美術史』につづく文庫版オリジナル著作第二弾。あらたに50のモチーフから美術作品を読み解いていく、小さいながらも情報量の多い作品。 著者である宮下規久朗は、前作『モチーフで読む美術史』の校了日に一人娘を22歳の若さ…