言いたいことはないのに
起き出して紙に語を並べるのは
言葉を石ころのように転がしておきたいから
(「入眠」p37)
獣の睦言
鉱物の
喃語
(「≪夢の引用≫の引用」p71)
谷川俊太郎『私』(2007年11月/思潮社) - 日本現代詩歌文学館
武満徹の音楽に想を得て書かれた詩が数篇。せっかくなので聴きながら読む。
初心者にもなじみやすい七つの楽曲(71分03秒)。比較的明るく伸びやかな金管楽器の音色がつづく1曲目の「デイ・シグナル」と7曲目の「ナイト・シグナル」が円環をなすように配置されていて延々と聴ける。「夢の引用」にはドビュッシーの「海」が引用されていて、海面の上と下を行きかっているような印象を持つ。セイレーンの惑わしのようなイメージだろうか。
言葉をなくして
そよぐ木々になりたかった
十万年前の雲になりたかった
鯨の歌になりたかった
今ぼくは無名に帰る
(「詩人の墓」へのエピタフ p57)
音楽にあこがれをいだく詩人の詩は、音楽による慰めとは別種の慰めを与えてくれていると思う。音楽は私を溶解させるようにはたらき、詩の言葉は鍼や灸のように私に刺激を与えてくれる。
谷川俊太郎
1931 -
武満徹
1930 - 1996