現代俳句作家のアンソロジー。55名(39句または81句)掲載。俳句の今を一般読者でも通覧できる意味ある書籍。短歌もそうだけど俳句も軟化・小世界化の傾向があると思う。圧倒的な商品経済のなかでの抒情。
以下、一読者視点で好みの句を一人一句ピックアップ。作者名、生年、引用句の表構成。編者が挙げる秀句と重なったのは二名、榮猿丸、澤田和弥。各作家の本質とは違ったところで選んでいる可能性が非常に高いのだろう。アンソロジー全体の印象は以下引用句で想像するよりもはるかに華やか。編者佐藤文香の圧倒的俳句愛によって爽快感も味わえる。個人的には福田若之と関悦史が好み。
【おもしろい】カテゴリー | ||
福田若之 | 1991 | 原稿の一マスに身をおさめる蛾 |
生駒大祐 | 1987 | 鯉抜けし手ざはり残る落花かな |
北大路翼 | 1978 | マフラーを地面につけて猫に餌 |
阪西敦子 | 1977 | 雛飾る雛しまひたくなりながら |
鴇田智哉 | 1969 | 鳥の巣を囲んで人の消えにけり |
高山れおな | 1968 | 大根の畑を夢で拡げけり |
小津夜景 | 1973 | ずぶぬれの枯葉のなかの微熱かな |
相沢文子 | 1974 | お彼岸や人の名前の坂くだる |
宮本佳世乃 | 1974 | はだいろの西瓜の種を吐きにけり |
小川春休 | 1976 | 天井を引き摺られくる風船よ |
西山ゆりこ | 1977 | レントゲンに押し当つる胸もどり寒 |
トオイダイスケ | 1982 | 春の芝はひはひの児を置き直す |
小川楓子 | 1983 | 今晩のポテトをつぶしつつ冬木 |
野口る理 | 1986 | 曖昧に踊り始める梅見かな |
中山奈々 | 1986 | ああ春はまだ暗がりに置くピアノ |
村越敦 | 1990 | 野遊やくしやつと凍る保冷剤 |
黒岩徳将 | 1990 | 聖夜劇天使も賢者も足ひきずる |
宮﨑莉々香 | 1996 | 冬服に少女らはあいまいになる |
【かっこいい】カテゴリー | ||
堀下翔 | 1995 | きちかうや黒いパジャマで出歩けば |
藤田哲史 | 1987 | 花冷や旋盤工に銅の塵 |
藤井あかり | 1980 | 羽もなく鰭もなく春待つており |
髙柳克弘 | 1980 | つまみたる夏蝶トランプの厚さ |
村上鞆彦 | 1979 | 散る花のなかなる幹のふと遠し |
榮猿丸 | 1968 | 吐く君の髪束ね持つ寒夜かな |
五島高資 | 1968 | 皿洗ふ水は流れていなびかり |
九堂夜想 | 1970 | 日に中る転び伴天連らもリラも |
田中亜美 | 1970 | 白牡丹顕れて留め金なき世界 |
中村安伸 | 1971 | 天窓があり永遠に上下あり |
曾根毅 | 1974 | 義仲寺の蜆づくしの浄土かな |
堀本裕樹 | 1974 | 火炎土器よりつぎつぎと揚羽かな |
岡田一実 | 1976 | 墓石は可動の石ぞ秋の暮 |
十亀わら | 1978 | 母の日の玄関に挿す紙の花 |
鎌田俊 | 1979 | 子を余所にあづけてきたり花へちま |
矢口晃 | 1980 | 白壁に蛾が当然のやうにゐる |
三村凌霄 | 1992 | 頂や汗拭くことを思ひ出す |
大塚凱 | 1995 | いもうとをのどかな水瓶と思ふ |
【かわいい】カテゴリー | ||
小野あらた | 1993 | 凩や匙の付け根にラテの泡 |
外山一機 | 1983 | 去年今年君は普通に良い名前 |
西村麒麟 | 1983 | 大根の上を次々神の旅 |
田島健一 | 1973 | 虎が蠅みつめる念力でござる |
関悦史 | 1969 | 小鳥来て姉と名乗りぬ飼ひにけり |
津川絵理子 | 1968 | 鴉呼ぶ鴉のことばクリスマス |
日隈恵里 | 1971 | 砕かれて瑠璃は絵の具に冬の星 |
長嶋有 | 1972 | 獏の池に冬日差し込み獏は留守 |
矢野玲奈 | 1975 | 母方の鼻あつまりて御慶かな |
髙勢祥子 | 1976 | 夏帽子くちびるだけを見せたくて |
津久井健之 | 1978 | 二階より覗かれながら種を蒔く |
澤田和弥 | 1980 | 幽霊とおぼしきものに麦茶出す |
南十二国 | 1980 | わが裸鏡に映る素朴なり |
佐藤智子 | 1980 | まるめろ酒ポワール・ヒロの床で寝る |
神野紗希 | 1983 | 水に映れば世界はきれい蛙跳ぶ |
越智友亮 | 1991 | 枇杷の花ふつうの未来だといいな |
今泉礼奈 | 1994 | マスク越しの鼻歌聞きながら眠る |
山岸冬草 | 1995 | 虚子の忌やよく寝る人は夢を見る |
【編者】 | ||
佐藤文香 | 1985 | 夏の蝶自画像の目はひらいてゐる |