読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

佐藤文香編著『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』(2017)

現代俳句作家のアンソロジー。55名(39句または81句)掲載。俳句の今を一般読者でも通覧できる意味ある書籍。短歌もそうだけど俳句も軟化・小世界化の傾向があると思う。圧倒的な商品経済のなかでの抒情。
以下、一読者視点で好みの句を一人一句ピックアップ。作者名、生年、引用句の表構成。編者が挙げる秀句と重なったのは二名、榮猿丸、澤田和弥。各作家の本質とは違ったところで選んでいる可能性が非常に高いのだろう。アンソロジー全体の印象は以下引用句で想像するよりもはるかに華やか。編者佐藤文香の圧倒的俳句愛によって爽快感も味わえる。個人的には福田若之と関悦史が好み。

 

【おもしろい】カテゴリー
福田若之 1991  原稿の一マスに身をおさめる蛾
生駒大祐 1987 鯉抜けし手ざはり残る落花かな
北大路翼 1978 マフラーを地面につけて猫に餌
阪西敦子 1977 雛飾る雛しまひたくなりながら
鴇田智哉 1969 鳥の巣を囲んで人の消えにけり
高山れおな 1968 大根の畑を夢で拡げけり
小津夜景 1973 ずぶぬれの枯葉のなかの微熱かな
相沢文子 1974 お彼岸や人の名前の坂くだる
宮本佳世乃 1974 はだいろの西瓜の種を吐きにけり
小川春休 1976 天井を引き摺られくる風船よ
西山ゆりこ 1977 レントゲンに押し当つる胸もどり寒
トオイダイスケ  1982 春の芝はひはひの児を置き直す
小川楓子 1983 今晩のポテトをつぶしつつ冬木
野口る理 1986 曖昧に踊り始める梅見かな
中山奈々 1986 ああ春はまだ暗がりに置くピアノ
村越敦 1990 野遊やくしやつと凍る保冷剤
黒岩徳将 1990 聖夜劇天使も賢者も足ひきずる
宮﨑莉々香 1996 冬服に少女らはあいまいになる
【かっこいい】カテゴリー
堀下翔 1995 きちかうや黒いパジャマで出歩けば
藤田哲史 1987 花冷や旋盤工に銅の塵
藤井あかり 1980 羽もなく鰭もなく春待つており
髙柳克弘 1980 つまみたる夏蝶トランプの厚さ
村上鞆彦 1979 散る花のなかなる幹のふと遠し
榮猿丸 1968 吐く君の髪束ね持つ寒夜かな
五島高資 1968 皿洗ふ水は流れていなびかり
九堂夜想 1970 日に中る転び伴天連らもリラも
田中亜美 1970 白牡丹顕れて留め金なき世界
中村安伸 1971 天窓があり永遠に上下あり
曾根毅 1974 義仲寺の蜆づくしの浄土かな
堀本裕樹 1974 火炎土器よりつぎつぎと揚羽かな
岡田一実 1976 墓石は可動の石ぞ秋の暮
十亀わら 1978 母の日の玄関に挿す紙の花
鎌田俊 1979 子を余所にあづけてきたり花へちま
矢口晃 1980 白壁に蛾が当然のやうにゐる
三村凌霄 1992 頂や汗拭くことを思ひ出す
大塚凱 1995 いもうとをのどかな水瓶と思ふ
【かわいい】カテゴリー
小野あらた 1993 凩や匙の付け根にラテの泡
外山一機 1983 去年今年君は普通に良い名前
西村麒麟 1983 大根の上を次々神の旅
島健 1973 虎が蠅みつめる念力でござる
関悦史 1969 小鳥来て姉と名乗りぬ飼ひにけり
津川絵理子 1968 鴉呼ぶ鴉のことばクリスマス
日隈恵里 1971 砕かれて瑠璃は絵の具に冬の星
長嶋有 1972 獏の池に冬日差し込み獏は留守
矢野玲奈 1975 母方の鼻あつまりて御慶かな
髙勢祥子 1976 夏帽子くちびるだけを見せたくて
津久井健之 1978 二階より覗かれながら種を蒔く
澤田和弥 1980 幽霊とおぼしきものに麦茶出す
十二国 1980 わが裸鏡に映る素朴なり
佐藤智子 1980 まるめろ酒ポワール・ヒロの床で寝る
神野紗希 1983 水に映れば世界はきれい蛙跳ぶ
越智友亮 1991 枇杷の花ふつうの未来だといいな
今泉礼奈 1994 マスク越しの鼻歌聞きながら眠る
山岸冬草 1995 虚子の忌やよく寝る人は夢を見る
【編者】
佐藤文香 1985 夏の蝶自画像の目はひらいてゐる


天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック | 左右社


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