読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

新潮社世界詩人全集でハインリヒ・ハイネの詩を読む(『ハイネ詩集』井上正蔵訳 1968 )

ユダヤ系ドイツ人でカール・マルクスとも交友があった愛と革命の詩人、ハインリヒ・ハイネ。日本語訳からでもほのかに伝わる多彩な詩形式の操り手。『流刑の神々・精霊物語』などの散文から受ける印象にくらべて、詩作品は遥かに軽妙。愛の詩はどうも苦手という人にも、社会風刺をこめた「アッタ・トロル」の物語詩はお勧めできる。一読の価値あり。

ふたつの影 (部分)

自然は私有財産なんか拵(こさ)えなかった
なぜなら おれたち おれたちはみんな
ポケットなしでこの世に生まれた
毛皮にポケットなんぞ付けちゃいない

おれたちは誰ひとりだって 生まれながら
からだの上っ皮に
あんな袋なんか付けちゃいない
盗んだものを匿すために

ただ人間だけが 他人の毛で
着物を作って着ている
皮膚のつるつるしたあの動物だけが
ポケットなんか作ることを心得てるんだ

ポケット こいつが
私有財産や所有権と同様に
不自然なんだ
人間て奴はポケットをつけた泥棒だ

 

(『アッタ・トロル』1842-1847より) 

 

「アッタ・トロル」の語り手は熊。ハイネ自身が「ロマン派の最後の自由な森の歌」と呼んだ愛すべき一作。


目次:
ロマンツェーロ
ドイツ冬物語
新詩集
アッタ・トロル
歌の本
詩集補遺

 

クリスティアン・ヨハン・ハインリヒ・ハイネ
1797 - 1856
カール・マルクス
1818 - 1883
井上正蔵
1913 - 1989