心理学・精神医学
1955-1956に行われたラカンの第3セミネール。シュレーバーの回想録を読み進めながら精神病の特質を神経症との違いから考察していく講義録で、弟子筋の精神分析家に対しての教育的側面が強く表れていて、分析家ではない一般読者には少々近寄りがたい空気も強…
ラカンのセミネール第2巻は『快楽原則の彼岸』をひとつの中軸テキストとして扱っていて、反復と機械という視点から人間を検討しているところが特に面白い。 以下、気になった点のメモ。 ・利己愛が騙すものであり、自我という想像的機能が欺く性質のもので…
岩波文庫から代表作『精神の生態学へ』と『精神と自然』とが刊行されて、手元においておくことが容易になったベイトソン。本書『天使のおそれ』は『精神と自然』で次回作として予告されていたものだが、ベイトソンがなくなってしまったために娘のメアリー・…
医学、メディア、言説、享楽などさまざまな領野における経済性と効率性に対する戦いの宣言書。のっぺりとして歯止めの効かなくなっていく内面と社会に対して、起伏と陰影のある溜めと含みを持った反現代的とも言える内面と社会を擁護している。時に戦いの相…
日本でもラカン派の精神分析学者による著作は数多く出版されているが、バロック的といわれ容易に読解を許さないラカンの著述や講義を体系化し一般化し世界的に普及させた功績は、ジャック・ラカンの弟子であり娘婿でもあるジャック=アラン・ミレールにある。…
ラカンが最も多く参照する哲学者であるアリストテレスにおける「原因」と「偶然」の概念から、ラカンの精神分析がいかなる部分を継承し、さらに超えていったかを、主体の構造という観点から説いた一冊。著者のフランス語の学位論文をベースに翻訳再編集した…
およそ二年ぶりくらいの再読。ほとんど忘れているが前回と比べて違うところに気がひかれているという感触もあり頭から通読した。借り物だと意図せず再読することもあるので、そこは流れに任せている。 不安は裏切らない、騙さない。他なるものの脅威としてあ…
ラカン派の精神分析家でパリ第八大学の造形美術学科で講義も行っているエミリー・シャンプノワによるコンパクトなアール・ブリュット入門書。アール・ブリュットは20世紀フランスの画家ジャン・デュビュッフェが1945年に提唱した芸術作品の概念で、既…
副題の「ユングの文学論」から具体的作品分析などを期待していると、早々に雰囲気が違い一般的な文学論ではないことが分かる。文芸作品を含む芸術作品には意識の統制から排除された生命エネルギーが顕現することが多いことを、意識と無意識の相補的関係と、…
ラカンの初期のエクリチュール。初期からのフロイトへの傾倒を知るに貴重な資料5篇。講義録ではない書かれたものとしてのテクストの存在感があるけれども、難解といわれる『エクリ』以前の作品なので、論じ方はいたって素直。読みやすく、とくに強調したい…
欲動のもとめる対象「対象a」あるいは「小文字の他者」をめぐる本格的考察が展開されることになる起点となったラカンのセミネール。聴講対象者はラカン派の分析家で、セミナールも10年目となると、前提されている知識が多くてなかなか全体像がつかみにくい…
哲学者アラン・バディウがいうところの「反哲学」とは、知的な至福の可能性と真理をめぐる思考である哲学の信用を失墜させるような仕方で同定した上で、哲学とは異なった思考の布置の到来であるような「行為」を引き受ける思考のスタイルを指していて、バデ…
平凡社ライブラリーのこの一冊は、2010年に平凡社から訳出刊行されたジャン=リュック・ジリボン『不気味な笑い フロイトとベルクソン』から生まれた古典的なふたつの論考を新訳カップリングしたアンソロジー的作品。 笑いと不気味なものというともに痙…
ベルクソンの『笑い』とフロイトの『不気味なもの』の並行した読み解きで、二つのテクストを共振させ、知的刺激をより広範囲に波及させようとする試みの書。途中からグレゴリー・ベイトソンの『精神の生態学』のなかのメタメッセージとして働く「枠」の考察…
現実的なもの-想像的なもの-象徴的なもの(現実界-想像界-象徴界)の関係がランガージュ(言語活動)とパロール(はなし・ことば)のはたらきから徐々に理解できるようにすすむ一番最初のラカンのセミネール。50代前半の脂の乗ったときの仕事。以前読んだ…
ラカンの後期セミネールの翻訳。70歳を越えてのみずみずしい教え。尽きることのない攻める姿勢、探究と魂鎮めの張り詰めた空間、緊張感ある分析空間から、世界の淵に足をかけながら激しく演じられている精神の劇的様相をあらわにしてくれている。 本書のい…
すごかった。笑える哲学書というのもめずらしい。本文もそうだけれどインパクトのある挿入図が独特で、その突飛さに思わずなんども吹きだした。笑いだけではなく、おそろしくいろいろなものがつめ込まれている。喜怒哀楽、戦慄、絶望、恐怖、愛、戦略、計画…
「フロイトに還れ」を旗印に20世紀以降の精神分析学の一大潮流を作ったラカンの20年にもおよぶ講義の11年目の講義録。精神分析の四つの基本概念である「無意識」「反復」「転移」「欲動」について、分析家の養成を目標に置きながら講義がすすめられて…
ガタリの『機械状無意識』(原書1979, 訳書1990)はプルーストの『失われた時を求めて』を論ずるために書かれたもので、本来第二部が主役である。「機械状無意識の冗長性物の二つの基本的範疇」としてあげられる顔面性特徴とリトルネロ(テンポ取り作用、あ…
ガタリがつくりだす概念の数々は各章の見出しを見渡してみるだけでも変わっていて、不思議な世界像を見せてくれる。私として存在しているもののなかに「ブラックホール」があるなんて思いもよらなかった。しかし、なにものかをを取り込んだまま観測不能の状…
風呂場の外ではカッシーラーの『シンボル形式の哲学』と中井正一全集を読んでいる2020年の年末、おおつもごりへむかう日々。 できることならカッシーラーの既刊文庫本(岩波文庫の『人間』、講談社学術文庫の『国家の神話』)で風呂場で読書も整えたいと…