読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ジャック・デリダ『思考すること、それはノンと言うことである 初期ソルボンヌ講義』(原著 2022, 訳:松田智裕 青土社 2023)

デリダ30歳、脱構築の著述家となる以前の1960-61年度のソルボンヌ大学での講義録。遠く『ユリシーズ・グラモフォン』のウィに関する考察にまで波及する肯定と否定の言辞に関する思索。 アランの「思考すること、それはノンと言うことである」という…

イヴ・ボヌフォワ『マラルメの詩学』(原著 1976,1992,1995,1996 訳:阿部良雄+菅野昭正 筑摩書房 2003)

法悦(エクスターズ)が〔人間を〕有限から解放していた。ところがその有限が法悦への道なのであった。(「最後の小筺の鍵」より) 中世の楽天的な象徴的構造の世界から科学の光によって分離されてしまった近代の有限で相対的な世界のなかで、有限を超えた無…

監修:瀧澤秀保、編集・文:ロム・インターナショナル『西洋絵画風景をめぐる12か月』(三才ブックス 2023)

副題は「西洋美術が楽しくなる一日5分の美術鑑賞」で、閏年対応の全366点の作品を解説紹介。書籍サイズがB6判で普通の単行本の大きさに横10.5cmのカラー図版が掲載されている。さすがに細部はよく見てとることはできないが、馴染みの薄い作品がかなり…

府中市美術館編著『与謝蕪村 「ぎこちない」を芸術にした画家』(東京美術 2021)

画家としての与謝蕪村 を「ぎこちなさ」や「頼りなさ」をあえて追求した元祖ヘタウマの人として顕彰した美術書。2021年の府中市美術館主催の与謝蕪村展の公式図録。104点の作品から蕪村のゆるさの魅力に引き込もうとしている府中市美術館学芸員金子信…

ジェラール・ドゥニゾ『50の傑作絵画で見る聖書の世界』(原著 2015, 訳:遠藤ゆかり 創元社 2023)

『50の傑作絵画で見る神話の世界』お姉妹篇。 聖書と絵画の組み合わせ企画の類書はかなり多いなかで作品50点での構成というのはすこし少ないかもしれないが、一枚の作品解説にかける分量が多いので、作品ごとに見るべき特徴を幅広く押さえている。「最後の…

ジェラール・ドゥニゾ『50の傑作絵画で見る神話の世界』(原著 2017, 訳:遠藤ゆかり 創元社 2023)

多くの日本人にとっては解説がなければどんな情景を描いているのか分からないことの多い西洋絵画の作品のうち、神話の世界を描いた50作品を絵解きする形式で、ギリシア・ローマ神話の世界をも同時に学べてしまうという企画の画集。 作品全体像とそのもとに…

笹公人の歌集を5冊

最寄りの図書館の歌集の棚を見ていると笹公人の歌集の開架における存在感が突出していたので気になるから読んでみた。俵万智よりも目立っているとはなにごとかという思いを自分なりに解消したいがための行動である。 念力の一語に吸収されていくような非現実…

斎藤幸平の「脱成長コミュニズム」の本二冊 『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』(KADOKAWA 2022)『マルクス解体 プロメテウスの夢とその先』(講談社 2023)

現実性が低いからと言って考えることを放棄せずに新たな思考の枠組を継続的に打ち出していくことを自らの使命と考えているのが「脱成長コミュニズム」のみが未来を拓く道であると提言する斎藤幸平のスタンスである。 store.kadokawa.co.jp 『ぼくはウーバー…

『ベリー侯の豪華時禱書』(原著 1988, 著:レイモン・カザル、訳:木島俊介 中央公論社 1989)

フランス王シャルル5世の弟、ベリー侯ジャン1世(Jean Ier, 1340年11月30日 - 1416年3月15日)が生前最後に作らせた豪華装飾写本。完成はベリー公の死後で、制作にあたったランブール兄弟も没した後になる。 ヤン・ファン・エイクも携わった『ベリー公の美わ…

木島俊介『美しき時禱書の世界  ヨーロッパ中世の四季』(中央公論社 1995)

西欧中世の装飾写本の代表的なものを解説付きで概観できる画集兼入門の書。13世紀から16世紀までの写本から101点を厳選し、レイアウトの割合としては基本的に図版4/5解説1/5で構成された書物。日本の鑑賞者限定の出版物でここまで丁寧に仕上げ…

釈徹宗『天才富永仲基 独創の町人学者』(新潮新書 2020)

富永仲基の方法論「加上」「異部名字難必和会」「三物五類」(張・泛・磯・反・天)「国有俗」「誠の道」を、主に『出定後語』を読み解きながら解説している良書。31歳で夭折してしまった仲基の早熟と天才的分析力がすっきりストレートに伝わってくるしっ…

中央公論社刊 日本の名著18『富永仲基・石田梅岩』

松岡正剛と田中優子の対談本『江戸問答』で江戸時代の知識層は聖人を目指していたというのを読んで、今はもうそういう時代ではないなと思いつつ手に取った著作。二人ともに儒学をベースに仏教と道教あるいは神道の教えを柔軟に取り込んで教条的になることな…

バルトルシャイティスの「逸脱の遠近法」三冊。バルトルシャイティス著作集Ⅰ『アベラシオン』Ⅱ『アナモルフォーズ』Ⅲ『イシス探究』

逸脱の遠近法? それは、なんらかの先入観にもとづいて事物を見ようとする欲求や情念によって、眼差を支配されてしまった精神がいだく眺望のことである。 明晰な精神ではなく幻惑され歪んではいるが熱狂的な精神がもたらした形態の数々を拾い集め丹念に分析…

『西脇順三郎コレクションⅢ 翻訳詩集』(慶應義塾大学出版会 2007)

西脇順三郎の詩の翻訳は基本的に原作に忠実ではあっても西脇的語調と世界観に移しかえられているために独自色が強く、読み取りやすく印象にも残りやすいものになっている。 ベラボウメおめえの面なんざみっともなくって見られやしねえと言ったじゃないかよ。…

『セガレン著作集〈6〉碑、頌、チベット』(訳:有田忠郎 水声社 2002)

20世紀初頭のフランス詩人ヴィクトル・セガレンの韻文詩篇集。中国とチベットの古代からの高貴さに包まれた文化風土をフィクションで飾りつつ讃え謳うセガレンの憧憬の歌。有田忠郎の気品ある訳文のおかげもあってか、セガレンの豊かで彫琢された言葉の数…

ジャック・デリダ『ユリシーズ グラモフォン ジョイスに寄せるふたこと』(原著 1987, 訳:合田正人+中真生 法政大学出版局 2001)

6月16日は120年目のブルームの日。そこに向けて何らかのかたちを残しておこうと本書を手に取ってみた。ジャック・デリダとジェイムズ・ジョイスの組み合わせとあって、読みはじめる前はかなり身構えていたものの、即興を交えた講演会の記録ということ…

ベルナール・スティグレール『技術と時間1 エピメテウスの過失』・『技術と時間2 方向喪失 ディスオリエンテーション』・『技術と時間3 映画の時間と〈難-存在〉の問題』(監修:石田英敬、訳:西兼志)

『技術と時間』はベルナール・スティグレールの主著。予定されていた巻数には届かずシリーズ的には未完だが、各巻は独立して読める。日本語訳されているほかの著作と比較すると、ほかの著作が講演やエッセイをベースにした一読了解可能な語り口にくらべ、い…

神原正明『ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を読む』(河出書房新社 2000, 講談社学術文庫 2017)

いま見ても幻想的でおかしさにあふれたヒエロニムス・ボスの『快楽の園』をイコノロジー(図像学)の立場から細部にこだわり読み解くことをテーマに掲げて書かれた著作。 ボスが生きた15世紀末に作品が受容された様子からはじまって歴史の厚みのなかで様々…

『ベリー公のいとも美しき時禱書』(原著 1998 解説:フランソワ・ベスフルグ+エバーハルト・ケーニヒ, 翻訳:冨永良子 岩波書店 2002)

中世末期の彩飾写本のなかでもひときわ美しく規模の大きな時禱書を紹介解説している大型本。カラーとモノクロを織り交ぜ、多くの図版を使って全体図と部分を隈なく取り上げている充実の一冊。もともと一冊であったものが歴史の中で三分割され、そのうちのひ…

ユルギス・バルトルシャイティス『幻想の中世 ゴシック美術における古代と異国趣味』(原著 1981, 1993 訳:西野嘉章 平凡社ライブラリー 新版 2023, 旧版 1998, リブロポート 1985)

ヒエロニムス・ボスやピーテル・ブリューゲルのなかに登場する数々の異形の生き物たち、それらには彼等の想像力が独自に生み出した部分もあるだろうが、多くは先行する図像の数々があった。中世西欧が古代形象や東方アジアの文化に触れて、その美術工芸のイ…

『エッシャー 不思議の秘密』(求龍堂 2023)

2023年12月から2024年9月まで佐川美術館、富山県美術館、豊田市美術館と巡回する日本で開かれているエッシャー展の公式図録。収録図版159点。 特徴は、エッシャーがエッシャーとして知られるような非現実的世界の作品を作成する前の時代のより…

ジャン=フランソワ・リオタール『リオタール寓話集』(原著 1993, 訳:本間邦雄 藤原書店 1996)

原題は『ポストモダンのモラリテ(教訓)』。現代社会における政治と美学に関わるエッセイとフィクション全十四篇からなる読み物的要素の大きい哲学談話。20ページ程度の本篇に訳者による「モラリテ」と題された1ページの解題が付いている。この訳者解題…

李舜志『ベルナール・スティグレールの哲学  人新世の技術論』(法政大学出版局 2024)

未完の主著『技術と時間』の生前最終刊行の第3巻が2013年に邦訳されてから翻訳が滞ってしまったスティグレール。師デリダの差延の思考に多くを負いながら、ハイデガーの技術論を批判的に継承し展開した思索が「人新世の技術論」とも呼ばれることになっ…

モーリス・ブランショ『明かしえぬ共同体』(原著 1983, 訳:西谷修 ちくま学芸文庫 1997, 朝日出版社 1984)

ジャン=リュック・ナンシーの『無為の共同体』を受けて書かれたブランショの共同の不可能性とともにある共同をベースにした共同体論。アセファル期のバタイユを中心として論じた「否定的共同体」と、デュラスの『死の病』と1968年5月の蜂起について書か…

ジャン=リュック・ナンシー『無為の共同体 哲学を問い直す分有の思考』(原著 1986,1999, 訳:西谷修+安原伸一朗 以文社 2001)

バタイユの脱自ー恍惚の思想を再解釈しつつ、有限性を持った個人の限界でのコミュニケーションについて考察した書物。限界の露呈と分有という非人称的な出来事によって複数的なものが成立する、共同体の不在の、無為なもの(営みを解かれたもの)としての別…