読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2024-11-01から1ヶ月間の記事一覧

村松和明『真実の眼 - ガランスの夢 村山槐多全作品集』(求龍堂 2019)

22歳5ヶ月の人生を駆け抜けた異能の芸術家村山槐多の全貌が見える作品集。 図版点数477点、うち絵画作品341点。中学生時代に描いた最初期の作品からその才能は明らかで、人間としての資質の違いにめまいがしてきそうになる。 自分は絵描きであると…

『バルベー・ドールヴィイ箴言集』(訳編:宮本孝正 審美社 1989)

箴言集というものはたまに読み返してみたくなる。自分の現在地を確認したくなるためだろうか。先日はラ・ロシュフコーも読み返していた。本書は今回で三回目くらいの再読か。 バルベー・ドールヴィイは反俗貴族主義の19世紀フランスのデカダン小説家。ボー…

安岡章太郎『私説聊斎志異』(講談社文芸文庫 1997, 朝日新聞社 1975)

17世紀中国の清代前期、科挙の試験に生涯落第し続けるかたわら『聊斎志異』を書いた蒲松齢に、大学受験や徴兵や敗戦後においての自らの劣等体験を重ね合わせながら、古典を読み、太宰を読み、自ら私小説を書くという趣向の作品。物書きならではの自分自身…

トマス・リッド『サイバネティクス全史 人類は思考するマシンに何を夢見たのか』(原著 2016, 訳:松浦俊輔 作品社 2017)

生物や人間と機械を同一視点から扱うことを可能にしたサイバネティクスの歴史をたどる著作。 扱っているのは第二次世界大戦時の軍用制御装置開発から21世紀初頭のテロ発生まで。 ノーバート・ウィナー、グレゴリー・ベイトソン、ティモシー・リアリーなど…

『ヘルベルト詩集』(訳:関口時正 未知谷 2024)

シンボルスカ、ミウォシュと並び立つ20世紀後半のポーランド詩を代表する詩人、ズビグニェフ・ヘルベルトの翻訳詩集。 冷戦期ポーランドの反体制派(反ソ連)の骨太の詩人。 茫然とするようなことどもを平然と受け入れられるよう時間をかけて醸成し、しっか…

『わたしの本はすぐに終る 吉本隆明詩集』(講談社文芸文庫 2024)

三島由紀夫より一つ学年が上なのか、なんてことを思いながら読んだ吉本隆明の詩選集。岩波文庫からも吉本隆明詩集が刊行されて、新しい読者にも届くようになった吉本隆明の詩作品ではあるが、果たして古典になれるかどうか、糸井重里や高橋源一郎など熱烈な…

『シェイマス・ヒーニー全詩集 1966~1991』(国文社 1995)

濃密で匂い立つようなアイルランドの風土を豊饒な言語で描き出しているシェイマス・ヒーニーの詩作品、その第一詩集から第八詩集まで集成した大部の詩集。日本での編集翻訳刊行年に丁度ノーベル文学賞が決まったというのだから、出版に携わった人たちの眼力…

シェイマス・ヒーニー『さ迷えるスウィーニー』(原著 1983, 訳:薬師川虹一+坂本完春+杉野徹+村田辰夫 国文社 2012)

七世紀アイルランドの狂える王スウィーニーの伝説を描いた『スウィーニーの狂気』のアイルランド語テキストをノーベル文学賞詩人シェイマス・ヒーニーが英語に翻訳再編集した物語詩。 キリスト教の高位聖職者のローナンが教会の敷地を新たな教会のために割り…

シェイマス・ヒーニーの詩集三冊『電燈』『郊外線と環状線』『人間の鎖』

1995年にノーベル文学賞を受賞したアイルランド出身の英語詩人の晩年の三詩集。 濃密で匂い立つような田園と都市の時空間を、豊かな語彙でしっかりと、だが軽快さをもって描き上げている、落ち着きとユーモアとノスタルジーにあふれた作品群。素朴である…

『宮川淳著作集 1』(美術出版社 1980)

所有している単行本『鏡・空間・イマージュ』『紙片と眼差とのあいだに』を再読した勢いに乗って著作集に手を出した。 現代的な絵画とテキストをめぐるシニフィアンとイマージュの終わりなき戯れについての論考の数々。 表現されたものの表面の輝きを軽妙に…

ホワイトヘッド著作集第12巻『観念の冒険』(原著 1933, 訳:山本誠作+菱木政晴 松籟社 1982)

ホワイトヘッドの哲学は「有機体の哲学」と言われるとともに「プロセス哲学」とも言われ、この宇宙が生成し変化していく様を捉えて描き出そうとしているものであるようだ。 私は今回ホワイトヘッドを主にドゥルーズとどのような関係にあるのかという関心から…

田中小実昌『ないものの存在』(福武書店 1990)

私生活と経験に絡めながら哲学書を読んで思ったことを書き留めるというスタイルの小説。ブログを書くのに何か参考になるかなと期待を込めて久しぶりに再読したが、哲学書を読む資質、哲学書を語る経験と環境、テキスト引用の分量など、諸々のハードルが目の…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『精神病』(原著 1981, 訳: 小出浩之+鈴木國文+川津芳照+笠原嘉 岩波書店 1987)

1955-1956に行われたラカンの第3セミネール。シュレーバーの回想録を読み進めながら精神病の特質を神経症との違いから考察していく講義録で、弟子筋の精神分析家に対しての教育的側面が強く表れていて、分析家ではない一般読者には少々近寄りがたい空気も強…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『フロイト理論と精神分析技法における 自我  -1954-1955-』(原著 1978, 訳: 小出浩之+鈴木國文+小川豊昭+南淳三 岩波書店 1998, 2017)

ラカンのセミネール第2巻は『快楽原則の彼岸』をひとつの中軸テキストとして扱っていて、反復と機械という視点から人間を検討しているところが特に面白い。 以下、気になった点のメモ。 ・利己愛が騙すものであり、自我という想像的機能が欺く性質のもので…

『定本清岡卓行全詩集』(思潮社 2008)

刊行詩集全17冊。37歳で初めての詩集『氷った焔』を出してから、詩集ごとに様々に趣の異なる詩作品を制作している詩人であるが、いずれも成熟した安定感のある詩集に仕上がっているところには感心させられる。青年期から書くことには自信を持っていたよ…