読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2024-10-01から1ヶ月間の記事一覧

グレゴリー・ベイトソン+メアリー・キャサリン・ベイトソン『天使のおそれ 聖なるもののエピステモロジー』(原著 1987, 訳:星川淳 青土社 1992)

岩波文庫から代表作『精神の生態学へ』と『精神と自然』とが刊行されて、手元においておくことが容易になったベイトソン。本書『天使のおそれ』は『精神と自然』で次回作として予告されていたものだが、ベイトソンがなくなってしまったために娘のメアリー・…

西田洋平『人間非機械論 サイバネティクスが開く未来』(講談社選書メチエ 2023)

情報処理の観点から人間と機械を同一視して考察を行うサイバネティクスという思考体系の創成期から現代にいたるまでの流れを追った見通しの良い解説書。現在のAIブームをつくり上げる基礎となった世界を論理的に秩序立った構築物として見るフォン・ノイマ…

山田五郎 アルケミスト双書 闇の西洋絵画史 第2期 【白の闇篇】6~10

アカデミックな王道路線とは違った作品にも目を向けさせてくれる新鮮な視点のシリーズ。 〈6〉天使 日本人にはなじみの薄い天使の3階級9種の位階についての解説をはじめに置いて、高い階級の天使の絵画から順を追って紹介されているところが構成的に親切。…

『前川佐美雄歌集』(編:三枝昻之 書肆侃侃房 2023)

モダニズム短歌の雄、前川佐美雄の最新選集。 本選集は、評価の高い青春期から壮年期にかけての『植物群』『大和』全首と、51歳の時に発表した「鬼百首」全首を核に据えた意欲的な編集構成。 1903年、明治36年生まれの歌人の同時代人には、俳人:中…

粕谷栄市『轉落』(思潮社 2004)

知っていますか? 粕谷栄市 知っていますか? モートン・バートレット ゾンネンシュターン ヘンリー・ダーガー 澁澤龍彦が好みそうな詩人だが、直接取り上げた形跡はなさそうだ。 想像上の独立世界を人知れず構築し、頑強に維持しつづけた稀に見る存在者たち…

プリーモ・レーヴィ『リリス アウシュヴィッツで見た幻想』(原著 1981, 訳:竹山博英 晃洋書房 2016)

アウシュヴィッツから生還したユダヤ系イタリア人作家の短編集。 アウシュビッツでの体験をベースに書かれた「来たるべき過去」グループ、SF的作品が集められた「かつてあった未来」のグループ、現代に生きる人を題材とした「示唆的現在」グループの三つのグ…

プリーモ・レーヴィ『溺れるものと救われるもの』(原著 1986, 訳:竹山博英 朝日文庫 2019)

アウシュビッツの記憶の風化と多くの人々の単純化された受容姿勢の変化に抗うようにして改めて書かれた考察と問いかけの書。本書執筆ののちにうつ病が悪化し死にまで至ってしまったが、体調悪化を予期しながらも書かずにはいられなかった作者の苦しみと責務…

轟孝夫『ハイデガーの哲学 『存在と時間』から後期の思索まで』(講談社現代新書 2023)

哲学者ハイデガーの思索の軌跡を最新の資料を参照しながら丹念に描き、堅実でありながらも読み手に新たな角度からのハイデガー像を提供する意欲的な著作。分量も内容も新書の枠を超えているような感じを与える熱量満載の一冊であると思う。 ハイデガー思想の…

筒井康隆『誰にもわかるハイデガー 文学部唯野教授・最終講義』(河出文庫 2022, )

哲学専門の人、ハイデガー専門の研究者とは異なる語り口で、ハイデガーの『存在と時間』に書かれていることを独自の圧縮法によりコンパクトに伝えてくれる奇才筒井康隆の講演録。1990年(平成2年)の講演録で、死刑囚永山則夫の入会拒否問題で日本文藝家協会…

宮川淳『絵画とその影』(編:建畠晢 みすず書房 2007)

1960年代日本の時事的美術批評集成。 針生一郎(1925-2010)や東野芳明(1930-2005)などの同時代の美術批評家の発言に密接した発言が特徴的な宮川淳(1933-1977)の美術誌掲載のエッセイの集成。 アンフォルメル、反芸術、ネオダダ、ポップアートなどの同時代的な…

ジャン=フランソワ・リオタール『文の抗争』(原著 1983, 法政大学出版局 1989)

『ポスト・モダンの条件』の後に書かれたリオタールの大きな書物。存在あるいは存在者について、文の生起・連鎖・抗争という視点から論じた著作で、ウィトゲンシュタインの言語ゲームとともにカントの特に崇高論の大きな影響下に思索が展開されている。ひと…

ジャン=フランソワ・リオタール『ポスト・モダンの条件 知・社会・言語ゲーム』(原著 1979, 訳:小林康夫 水声社 叢書言語の政治 1986)

初読。 大きな物語の失墜したポスト・モダンの時代を告げる宣言の書かと思っていたが、ちょっと違った。60年代後半からポスト・インダストリーという概念とともに主にアメリカで言われはじめたポスト・モダンの時代状況を、検討分析し報告するという形式の…

今道友信『美の位相と芸術 増補版』(東京大学出版会 1971)

今道友信の主著のひとつ。体系的に書かれているため、著者の方向性がしっかり出ているとともに美学史全般に対するひとつの視座も与えてくれる。 特徴 1.美的判断は趣味判断ではなく理性判断であると主張しているところ 2.機械化の極度に進んだ現代の技術…