読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『前川佐美雄歌集』(編:三枝昻之 書肆侃侃房 2023)

モダニズム短歌の雄、前川佐美雄の最新選集。

本選集は、評価の高い青春期から壮年期にかけての『植物群』『大和』全首と、51歳の時に発表した「鬼百首」全首を核に据えた意欲的な編集構成。

1903年、明治36年生まれの歌人の同時代人には、俳人中村草田男山口誓子石田波郷、詩人:中原中也草野心平三好達治金子光晴伊東静雄歌人塚本邦雄寺山修司などがいる。

名前を並べてみると前川佐美雄はかなり古めかしい感じがしないこともないが、実作を読んでみれば俵万智の現代短歌に先行するような口語的言語感覚と感受性に溢れた作家であることがわかる。

バランスとしては人生後半の作品の比率はかなり少ないが、その少なさの理由を考えつつ、並行して読んでいたルソーの『孤独な散歩者の夢想』とともに、老いて退行しながらも表現するほかない人間の姿がじんわりと浮かび上がってくるのがかなり心に沁みた。

何もかも滅茶滅茶になつてしまひなばあるひはむしろ安らかならむ
『植物祭』(1930)

 

無茶苦茶の世となれと曽(かつ)て叫びしがその世今来てわれを泣かしむ
『紅梅』(1946)

 

われ今し独りごと言ひぬ独りごと何なりにしや寒き日ぐれに
『天井紅葉』より 1987作

 

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前川佐美雄
1903 - 1990

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