読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ジャン=フランソワ・リオタール『非人間的なもの 時間についての講話』(原著 1988, 訳:篠原資明+上村博+平芳幸浩 法政大学出版局 2002, 2010)

人間の種としての限界に抵抗するために、限界の存在を忘れずに、資本主義市場に取り込まれることもなく、仕事をやめて、人を非人間化してしまう人間主義的なシステムに抵抗していくことをさまざまな切り口から繰り返し説いた講演集。感受性の限界に関わる崇…

町田康歌集『くるぶし』(COTOGOTOBOOKS 2024)

作家町田康の初の歌集、全352首。 共感の乞食となりて広野原彷徨いありく豚のさもしさ鈍色のダサい鉄下駄突きかけて己の中の豚の餌遣り 豚に喰わせるために出した歌集だろうか。読みはじめたら豚でもあるように自覚してきたので普通に全部食してみたが、…

インタビュー・編:吉成真由美『嘘と孤独とテクノロジー 知の巨人に聞く』(集英社インターナショナル新書 2020)

インターネット時代において、より進行した負の側面、個人の分断孤立化と格差の拡大、偽情報や対立の蔓延などに危機感を抱く編者吉成真由美が、インタビュアーとなって、現代を代表する知の世界の巨人たち5人の考えを聞くという趣向の一冊。 研究する分野も…

清水亮『検索から生成へ 生成AIによるパラダイムシフトの行方』(インプレス、エムディエヌコーポレーション 2023)

ファインチューニングされたAIを持つことの優位性と、AIチューニングにおいての嗜好性の特化による品質優位性獲得という視点が印象に残った。 マスマーケットではなく特定ターゲットに絞ったAI活用のほうがビジネスとして成功の可能性は高いようだ。 平均的…

木田元の著作四冊 『現代の哲学』『哲学と反哲学』『ハイデガーの思想』『マッハとニーチェ 世紀転換期思想史』

『現代の哲学』(講談社学術文庫 1991, 日本放送出版協会 1969) 木田元の処女作。気負いもあり凝縮度の高い著作で、一通り読むのに緊張感を強いるところもあるのだが、20世紀の学問的状況を通時的に、幅広く、手際よく整理しているところが魅力的な著作。…

紺野大地+池谷裕二『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか』(講談社 2021)

脳とAIの融合の可能性に関する医学系研究者からのレポート。 身体疾患へのケアと脳の機能拡張という視点からの言及が多い。 脳へのアプローチにおける倫理的な面と身体に対する負荷について、現在の状況と今後のAI発展の予想をベースに展開している著作。内…

ジュール・ミシュレ『万物の宴 すべての生命体はひとつ』(原著 1879, 編:大野 一道, 訳:大野一道+翠川博之 藤原書店 2023)

フランスの歴史家ミシュレの死後出版された未完の作品。『フランス革命史』を書き上げた後、ルイ・ナポレオンのクーデターによって成立した第二帝政期に共和制支持の立場を崩さなかったがために、コレージュ・ド・フランス教授職ほかすべての公職を失うこと…

マルティン・ハイデガー『アリストテレスの現象学的解釈  『存在と時間』への道』(訳:高田珠樹、平凡社 2008)

『存在と時間』刊行以前に書かれた数少ないハイデガーの論考「ナトルプ報告」の邦訳単行本。 同時期の講義録とは趣が異なり、アリストテレスの著作に基づいて自説を展開しているところに読者としては多少の捉えやすさがある。 世界と己への配慮のなかでの精…

ハイデッガー全集 第61巻(第2部門 講義(1919-44)) アリストテレスの現象学的解釈/現象学的研究入門(創文社 2009, 東京大学出版会 2021)

『存在と時間』刊行以前、「ナトルプ報告」のもとにもなったハイデガー初期の講義録。 哲学とは何かということを、言語を用いて問いを立てるということはどういったことかというところから論じている。 また、生のなかでの有意義なものの様相を記述しようと…

立木康介『露出せよ、と現代文明は言う 「心の闇」の喪失と精神分析』(河出書房新社 2013)

医学、メディア、言説、享楽などさまざまな領野における経済性と効率性に対する戦いの宣言書。のっぺりとして歯止めの効かなくなっていく内面と社会に対して、起伏と陰影のある溜めと含みを持った反現代的とも言える内面と社会を擁護している。時に戦いの相…