読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

リチャード・ローティ『アメリカ 未完のプロジェクト ―20世紀アメリカにおける左翼思想―』(原著 1998, 晃洋書房 2000, 2017)

リチャード・ローティの政治的信条はブルジョワ・リベラル。立憲民主主義のもとで最大限に自由かつ寛容な社会を実現していこうとする立場。原理主義的な完璧性を目指す急進派に対して、「有限で終息する運命にある」社会政治的なキャンペーンをくりかえすことで特定の成果を積みあげていくことを目指している。行動指針となるのはマルクスではなく、ジョン・デューイウォルト・ホイットマンあるいはエマソンなどのアメリカの民主主義を推進するための理論家であり芸術家でもある人々。無限の多様性を勝ち取ろうとする人々だった。
本書は、1973年以降の中産階級アメリカ人のプロレタリアート化が進行していく情況を押さえながら、そのなかでも差別の撤廃と自由と権利の獲得もなし遂げてきたアメリカの状況をも伝えている。グローバル化することで厳しさを増す労働状況にあっても、ひとつひとつ改良を重ねる実践を諦めないこと。ローティの民主主義への信仰と改善に向かう実践への信念は極めてストレートで、政治的傍観者の立ち位置にいることが多い私のような人間からすると、その活力が不思議にも感じられる。デューイやホイットマンエマソンの言葉にはローティの思想を支える力がそれほどにあるのかということにも驚きがある。
夢や希望を積極的には語りずらい状況は今の日本にも通じるもので、余裕がなくなっていく日々の暮らしのなかで他者への寛容さを失いやすくなる危険も今の日本の状況と重なる。そのような好ましくはない状況のなかで、プラグマティックな行動をとり続けることが可能となるひとつの例として、本書のローティの言論活動がある。参考になるだろうかと思いながら、ローティが深く読み込んだデューイやホイットマンエマソンを読み返してみようかと今考えている。もっとよい未来を想像したい人々とローティによって肯定的に語られている「インスピレーションを求めて書物を読む人々」には辛うじて引っかかっているので、紹介された本くらいには手をのばせる範囲で当ってみようというところである。

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【付箋箇所】
ⅳ,ⅵ, 17, 24, 27, 30, 37, 49, 89, 103, 131, 147

目次:

第一講義 アメリカ国家の誇り――ホイットマンとデューイ――
第二講義 改良主義左翼の衰退
第三講義 文化左翼

付 録
運動とキャンペーン
偉大な文学作品が与えるインスピレーションの価値

リチャード・ローティ
1931 - 2007
小澤照彦
1947 -