読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

講義

1929年のイギリスのエディンバラ大学のギフォード講義録 ジョン・デューイ『確実性の探究 知識と行為の関係についての研究』(原著 1929, 東京大学出版会 2018)

ハイゼンベルクの不確定性原理(1927年)以後、量子力学以後の哲学としてのデューイのプラグマティズム。確固とした真理を前提するのではなく、知性の活動の蓄積と不断の検証による改善によって生み出された実用的な成果にその都度満足すること。不確実性や…

松岡正剛『情報の歴史を読む 世界情報文化史講義』(NTT出版 1997)と松岡正剛監修『増補 情報の歴史 象形文字から人工知能まで』(NTT出版 1996)

2021年に再増補版として『情報の歴史21―象形文字から仮想現実まで』が編集工学出版社から刊行されているらしいのだが、今回私が覗いてみたのは、ひとつ前の増補版『増補 情報の歴史 象形文字から人工知能まで』。第八ダイアグラムの「情報の文明―情報…

カール・グスタフ・ユング 『想像する無意識 ユングの文学論』(松代洋一訳朝日出版社 1985, 平凡社ライブラリー 1996)

副題の「ユングの文学論」から具体的作品分析などを期待していると、早々に雰囲気が違い一般的な文学論ではないことが分かる。文芸作品を含む芸術作品には意識の統制から排除された生命エネルギーが顕現することが多いことを、意識と無意識の相補的関係と、…

リチャード・ローティ『アメリカ 未完のプロジェクト ―20世紀アメリカにおける左翼思想―』(原著 1998, 晃洋書房 2000, 2017)

リチャード・ローティの政治的信条はブルジョワ・リベラル。立憲民主主義のもとで最大限に自由かつ寛容な社会を実現していこうとする立場。原理主義的な完璧性を目指す急進派に対して、「有限で終息する運命にある」社会政治的なキャンペーンをくりかえすこ…

リチャード・ローティ『偶然性・アイロニー・連帯 リベラル・ユートピアの可能性』(原著 1989, 岩波書店 2000)

真理は発見されるものではなく言語のメタファー機能によって作り出されていくものであるという、ローティのロマン主義的思想を展開した代表作。20世紀の分析哲学と大陸哲学双方に目配せが利いていることによって、逆にアカデミックな印象をあまり感じさせ…

ハンス・ヨーナス『アウシュヴィッツ以後の神』(原著 1994, 法政大学出版局 品川哲彦訳 2009)

ハンス・ヨーナスは1903年生まれのドイツ系ユダヤ人哲学者。学生時代にはシオニズム運動に参加し、第二次世界大戦時にはイギリス軍に志願しユダヤ旅団に属してナチス・ドイツと戦った。また、戦期にドイツから出国することの叶わなかった母親は、アウシュビ…

喜連川優+野城智也 編『東大塾IoT講義』(東京大学出版会 2020)

繋がらないことの優位なんてほとんどないが、あまり繋がっていたくもないというのが私の本心。 Windows95と先頃公式には引退されたieの組み合わせから広まったwebアプリケーションの世界で、開発および保守運用に携わり、生活の資を得てきた人間ではあるのだ…

末木文美士『『碧巌録』を読む』(岩波書店 1998, 岩波現代文庫 2018)

岩波文庫の『碧巌録』全三巻は1990年代の最新研究を取り入れた画期的な新釈でおくる文庫本として広く受け入れられたらしいが、実際に手にとってみると、読み下し文と注から読み解くべきもので、現代語訳がなくなかなかハードルが高い。図書館で取り寄せやす…

アラン・バディウ『ラカン 反哲学3 セミネール 1994-1995』(原著 2013, 法政大学出版局 原和之訳 2019)

哲学者アラン・バディウがいうところの「反哲学」とは、知的な至福の可能性と真理をめぐる思考である哲学の信用を失墜させるような仕方で同定した上で、哲学とは異なった思考の布置の到来であるような「行為」を引き受ける思考のスタイルを指していて、バデ…

仲正昌樹『哲学JAM 現代社会をときほぐす』赤版・青版・白版 全三冊(共和国 2021)金沢の地で公開講座をするバランス重視の現代日本の哲学学者の記録(質疑応答付き)

金沢市の書店「石引パブリック」で2019年に開催された全11回の連続講座「仲正昌樹と考える:哲学JAM」を書籍したもの。三分冊で赤、青、白と分けられている。 仲正昌樹+作品社+連合設計社市谷建築事務所から成る入門講義シリーズとはちょっとテイストが変…

仲正昌樹『〈日本哲学〉入門講義 西田幾多郎と和辻哲郎』(作品社 2015)

西田幾多郎『善の研究』(1911)と和辻哲郎『人間の学としての倫理学』(1934)の読解講義。とりあえず両作ともに目を通したことがあるところで本書を読んだ印象では、仲正昌樹の入門講義シリーズは、対象となった哲学者やその著作がおおよそどのようなこと…

ジャック・デリダ『哲学のナショナリズム 性、人種、ヒューマニティ』(パリ社会科学高等研究院での原セミネール 1984/85, 原書 2018, 藤本一勇訳 岩波書店 2021)

ハイデガーのトラークル論をデリダが脱構築的に読み直し論じた講義録。単純に詩人トラークルが好きだからということで手に取って読んだとすると、ハイデガーもデリダもなに言ってんのということになりかねないし、トラークルの詩の印象からはかなり隔たって…

ポール・ヴァレリー『精神の危機 他十五篇』(岩波文庫 2010)

20世紀前半、第一次世界大戦終結からヴァレリー晩年の第二次世界大戦終結期までに発表された講演や式辞、エッセイを集めた一冊。西欧精神の優位と没落を併せ語っているところに機械文明・機械産業膨張期に対しての旧世代最後の抵抗がきこえてくる。抵抗と…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『精神分析の四基本概念』上下巻(原書 1973, 岩波書店 2000, 改訂版岩波文庫 2020 )理性と無意識の関係など

「フロイトに還れ」を旗印に20世紀以降の精神分析学の一大潮流を作ったラカンの20年にもおよぶ講義の11年目の講義録。精神分析の四つの基本概念である「無意識」「反復」「転移」「欲動」について、分析家の養成を目標に置きながら講義がすすめられて…

【お風呂でロールズ】08.『政治哲学史講義』マルクス(講義Ⅰ~Ⅲ)格差原理は共産主義にまさるというロールズの押し出し

ロールズのマルクス講義では、マルクスが考えていた理想社会を、『資本論』のなかでよく使われる呼称から「自由に連合した生産者の社会」と呼び、その実現段階としては「社会主義」と「共産主義」があるとし、このふたつの段階の差異として、『ゴータ綱領批…

【お風呂でロールズ】07.『政治哲学史講義』ミル(講義Ⅰ~Ⅳ)ミルの功利主義とロールズの公正としての正義(格差原理)の親和性

ロールズのミルの講義は、自身の考えとの近さゆえにほかの思想家よりも分量も多く自身の見解を深く織り交ぜながら展開されている。目指しているのはともに最大幸福の実現で、ミルの場合は効用原理、ロールズの場合は格差原理からのアプローチと、ことばは違…

【お風呂でロールズ】06.『政治哲学史講義』ルソー(講義Ⅰ~Ⅲ)一般意志と共通善

共通善は common good であるので、翻訳では消えてしまっているけれども共通財とも常時かぶせて読んでくれというようなことが翻訳者側から注意として書かれていたような気がすることをルソーの講義では思い出した。 一般意志は共通善を意志するのですが、そ…

【お風呂でロールズ】05.『政治哲学史講義』ヒューム(講義Ⅰ~Ⅱ) 功利主義者としてのヒュームの政治思想

ホッブズ、ロックの社会契約説からヒュームとミルの功利主義へ講義は移る。自然法による原始の契約から効用の原理での合意選択へのイギリスの政治思想の流れをみながら、ロールズは経験主義哲学者でもあるヒュームの政治思想の面を、主にロックとの対比で語…

【お風呂でロールズ】04.『政治哲学史講義』ロック(講義Ⅰ~Ⅲ) 所有と階級国家についての思想の講義

古典は今現在の視点で批判しても意味はなく、それが書かれた当時の状況において、どのような問題を解決するために書かれたかを考慮しつつ読む必要があるというまっとうな指摘は記憶に残ったが、ロックのどこら辺に限界があるのかはあんまり残らなかった。ロ…

【お風呂でロールズ】03.『政治哲学史講義』功利主義を講じる際に出てきた人間タイプの表現に関してのメモ

ロールズがシジウィックの功利主義について考察している際に、否定的というか、強いられたとすれば嫌悪感をもよおすであろう人間のタイプのとして提示されたものに、逆に、自主的には望むべき人間のタイプなのではないのかと強く感じたために、ロック、ヒュ…

【お風呂でロールズ】02.『政治哲学史講義』ホッブズ(講義Ⅰ~Ⅳ+補遺) 教師がサービス業であることを思い出させてくれる講義

マイケル・サンデルの白熱教室のような討論形式の講義ではなく、オーソドックスな教授型の講義が目に浮かんでくるような講義録。特徴的なのは、ロールズの人柄がそうさせるであろうような誠実さと慎重さを基本にそえた論考の姿勢と、学生たちへ提供された資…

【お風呂でロールズ】01.『政治哲学史講義』序論―政治哲学についての見解 リベラリズムの展開を支えた制御と制限

歴史上の階級間闘争のなかで政治的妥当を精査する層が変化していったということを、まずは序論で確認しておく。 リベラリズムの三つの主要な歴史的源泉は次に挙げるものです。第一に宗教改革、および一六世紀、一七世紀の宗教戦争。この戦争はまず、寛容と良…

【お風呂でロールズ】00.読書資料 2020年刊行の岩波現代文庫のジョン・ロールズ本、三冊

自由と平等を守り保つのがおそらく正義。しかしながら、自由と平等は相性があまりよくない。平等も、何時の誰の立場のどの部分どの範囲における平等かということで、定義も評価も変わってくる。徴税と再分配を司る国家行政運営部門にも取り分があり、そこが…

希望の思想家、エルンスト・ブロッホ「希望は失望させられることがあるか」(テュービンゲン大学開講講義,1961 『異化Ⅰヤヌスの諸像』収録 原書1962, 白水社 1986)

エルンスト・ブロッホは異化の思想家であるとともに希望の思想家でもあった。それぞれの思想を語る際に共通しているのは、世界が変容する現在の現われに対して明晰な視線を投げかけているところ。 希望は、自由の王国と呼ばれる目的内容に従いつつ、投げやり…

青山拓央『分析哲学講義』(ちくま新書 2012) 知的挑発を埋め込んだ分析哲学入門書

フレーゲとラッセルの論理学研究からはじまり、クワイン、ウィトゲンシュタインなどの業績を経て、最近議論されることの多い心身問題、心脳問題、クオリアに関わる論点まで、入門書と言いながら、各講義で各トピックの概略図を示したあとに、読者に向けて自…

門屋秀一『美術で綴るキリスト教と仏教 有の西欧と無の日本』(晃洋書房 2016)キリスト教の宗教画と日本の禅画を比較しながら最終的には西田幾多郎の哲学の核心にせまろうとする著作

美術の棚にあったけれど、著者自身があとがきで書いているように宗教学の本。出版社のサイトにもジャンルは哲学・宗教学と書いてあったので、美術の歴史や技巧や洋の東西の美術的な差異などについての記述を期待していると裏切られる。宗教画や禅画の図版は…

シェリー・ケーガン『「死」とはなにか  イェール大学で23年連続の人気講義 日本縮約版』(原書 2012, 文響社 柴田裕之訳 2018 )唯物論者の死生観を再確認し突き固めるのに適した一冊

NHKの白熱教室に出てきそうな大学講師の講義録。マイケル・サンデルの講義録と言われてもそれほど違和感はない。今世紀初頭に流行した一般的なスタイルであるのだろうか。寛容・非寛容の判断にいたる前段階で、厳密な吟味を経ない共存・併存が可能であるよう…

マルティン・ハイデッガー『物への問い カントの先験的原則論のために』(原書 1935-36, 1962 理想社ハイデッガー選集27 近藤功・木場深定 訳 1979) 経験の対象としての物

思惟するものとしての私と対象としての物との「間」というのがハイデッガーのほかの著作でいうところの「存在」であるというような印象が残った。 カントは、彼の著作の終わりの部分(A737, B765)で純粋悟性の原則について次のように述べている。《純粋悟性…

鎌田茂雄『華厳の思想』( 講談社 1982, 講談社学術文庫 1988)正統が示す華厳思想の守備範囲

現代的な東洋思想に対する期待に対して、東洋哲学正統からの一般的見解として、大乗仏教の守備範囲を明示してくれるありがたい一冊。入門書とはいえ、学問的境界に対する感度は極めて敏感であると感じた。基本的に著者鎌田茂雄は科学との容易な連合には否定…

【ハイデッガーの『ニーチェ』を風呂場で読む】通読後のまとめ 00(10/10)~28(11/15)

小分けに読んで、部分的な感想を書きながらの読書だったので、一気読みよりは内容が頭に残っているような気がする。講義録だったので、日々の区切りもつけやすかった。 【投稿一覧】10/10 02:14 00. 準備 大きな作品は風呂場で読むと意外と読み通せる 10/10 …