読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『後鳥羽院御集』(明治書院 和歌文学大系24 久保田淳監修 寺島恒世著 1997)

新古今和歌集(1205)と承久の乱(1221)の中心人物、後鳥羽院の家集。1221年の隠岐配流以降の主要作「遠島百首」は本家集には含まれていないが、配流後の作品を含め約1800首の作品から後鳥羽院の歌の姿を知ることができる。帝王振りといわれる作風は、自身が統治者であり和歌の司祭であるところの世俗を超越した儀礼や社交の時空間を言祝ぎ、賦活している印象を与える。個人としての表現というよりも、和歌の主宰者でもある帝王の伝統のたたずまいが湧出している。崇徳院もまた歌才に恵まれた天皇であり上皇であったが、統治者としての印象よりも悲運の帝としての個の印象が圧倒的で、後鳥羽院の鷹揚な非個性的な個性とはまた異なっている。
同時代を生きた慈円の『愚管抄』によれば、後白河法皇が新天皇を選ぶために候補者の親王二人を呼び寄せたときに、後鳥羽天皇がニッコリと笑ったがために選ばれたということで、この人物はおそらく闇の側に関する感覚がきわめて弱いのだろうと感じさせる。光に対する感受性に秀でているがために、世俗の汚れや打算や疲弊した闇の部分にはあまり気がつかない傾向があったのではないかと考えさせる。本家集収録歌がいつごろ詠われたかを確認するために、歌ごとに催された歌合や歌会を拾い上げてみたところ、新古今和歌集編纂の院宣が出された1021年からとりあえずの完成を画した1025年の「竟宴」を経て、いつ終わるともしれぬ「切り継ぎ」をつづけていた期間、とくに後鳥羽院の20代のとどまることを知らぬ探究心は、臣下として相手にするのは相当な苦労であったろうとあらためて感じさせるものがあった。18歳年上の藤原定家がうんざりした様子を見せるのも宜なるかなと思わせる。

 

 

後鳥羽院 1180-1239の歌 西暦 年齢
正治二年八月御百首 1200 20
正治後度百首 1200 20
建仁元年三月内宮御百首 1201 21
外宮御百首 1201 21
建仁元年六月千五百番御歌合 1201 21
建保四年二月御百首 1216 36
詠五百首和歌 1221
隠岐配流以後
41以後
建仁元年二月老若五十首御歌合 1201 21
元久元年十二月八幡三十首御会 1204 24
同月賀茂上社三十首御会 1204 24
賀茂下社三十首御会 1204 24
同月住吉三十首御会 1204 24
元久二年三月日吉三十首御会 1205 25
承元二年二月内宮三十首御歌 1208 28
同外宮三十首御会 1208 28
承元元年十一月最勝四天王院御障子 1207 27
建暦二年十二月二十首御会 1212 32
正治二年七月北面御歌合 1200 20
同七月十八日御歌合 1200 20
同八月一日新宮歌合 1200 20
同九月御歌合 1200 20
同九月尽日御歌合 1200 20
同十月一日御歌合 1200 20
同日歌合 1200 20
同十月十一日新宮歌合 1200 20
同十一月七日新宮歌合 1200 20
同十一月八日影供歌合 1200 20
同十一月二十九日御幸 住吉社三首 1200 20
同十二月歌合 1200 20
建仁元年正月十八日影供御歌合 1201 21
同三月十八日影供御歌合 1201 21
同三月尽新宮撰歌合 1201 21
同四月二十六日御会 鳥羽殿初度 1201 21
同四月三十日影供歌合 1201 21
同日当座御会 1201 21
同五月城南寺歌合 1201 21
同七月二十七日当座御会 和歌所 1201 21
同八月三日影供御歌合 和歌所初度 1201 21
同月十五夜撰歌合 1201 21
同日当座御会 和歌九品 1201 21
同十二月影供歌合 隠名 1201 21
同十二月二十八日 石清水社歌合 1201 21
建仁二年正月十三日御会 和歌所 1202 22
同二月十日影供御歌合 1202 22
同三月二十二日三体和歌 1202 22
同三月同日 当座御会 1202 22
同五月影供御歌合 1202 22
同六月水無瀬釣殿御歌合 1202 22
同八月十五日夜 1202 22
同八月二十日影供歌合 1202 22
同九月二十九日恋十五首撰歌合 1202 22
同九月十三夜御会 1202 22
又同夜当座御会 1202 22
建仁三年正月十五日御会 高陽院殿 1203 23
同六月十六日影供歌合 1203 23
同六月十六日影供之次 夏月二首 1203 23
同七月五日八幡宮撰歌合 1203 23
同八月十五夜和歌所当座五首 1203 23
同時屏風御歌 1203 23
同月日六首 和歌所 1203 23
元久元年七月十六日御会 1204 24
同八月十五日夜御会 五辻殿初度 1204 24
同夜当座御会 1204 24
同十月石清水御歌合 1204 24
同十月日当座歌合 1204 24
同十一月十三日春日社御歌合 1204 24
元久二年三月二十六日 新古今集竟宴和歌 1205 25
同七月十八日北野御歌合 1205 25
建永元年正月十一日御会 高陽院 1206 26
同七月二十五日御歌合 卿相侍臣歌合 1206 26
同日当座御歌合 1206 26
同月中後日当座御歌合 1206 26
同月中当座御歌合 1206 26
同八月五日 鳥羽院新御所初 1206 26
同八月御歌合 1206 26
承元元年正月二十二日御会 和歌所 1207 27
同三月七日鴨社歌合 1207 27
同日賀茂社歌合 1207 27
承元二年三月住吉御歌合 1208 28
同閏四月四日 1208 28
承元四年八月十一日 何歌当座 1210 30
同九月粟田宮御歌合 1210 30
建暦二年二月二十五日 1212 32
建暦三年七月十七日松尾社歌合 1213 33
建保元年十二月十四日御会 水無瀬殿 1213 33
建保二年二月御会 1214 34
同八月撰歌合 1214 34
同九月三日当座二首 1214 34
同九月十四日 1214 34
建保三年六月二日御歌合 1215 35
建保四年八月二十五日五首 
御熊野詣路次当座和歌 湯浅宿
1216 36
同十月十一日庚申嵯峨殿 1216 36
建保五年四月十四日庚申御会 1217 37
建保七年三月八日御会 水無瀬殿 1219 39
撰歌合 嘉禄二年四月二十一日 1226 46

 

世中の常なき色を知れとてや露の宿りに月もすむらん

隠岐での詠。無常の世にあっても後鳥羽院の脳裏には慈悲の恵みの光が息づいているようなのだ。

 

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【付箋歌】
100, 239, 487, 663, 711, 736, 802, 822, 827, 842, 918, 969, 1079, 1124, 1238, 1370, 1388, 1406, 1431, 1472, 1473, 1522, 1664, 1698, 1725, 1733, 1762, 1764, 1767


後鳥羽院 
1180-1239