読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

末永照和『評伝ジャン・デュビュッフェ アール・ブリュットの探究者』(青土社 2012)

芸術の使命は創造的壊乱と個性の本来的な独走表現にあるといった信念のもとに生き活動したジャン・デュビュッフェの肖像を活写した日本オリジナルの評伝。シュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンとも正面切って論争し、自分の主張や感情を曲げず傍若無人の振舞いをすることの多いデュビュッフェを、時に辛辣に評価する著者の批評眼は全篇に渡ってよく効いている。中年になるまでの芸術的不遇や、家族からの無理解によって、狷介孤高の姿勢に拍車がかかっていった様子も、章を追うごとに腑に落ちてくる。バランスよく、よく描ききった人物伝ではないかと思う。
印象に残るのは最晩年のアントナン・アルトーを支援していた時のエピソード。20歳の時にアルトーに出会って以来、敬愛の念を抱いていたでビュッフェは、精神病院に幽閉され電気ショック療法などで心身共に危機的状況にあったアルトーを救い出すべく活動し、1946年パリに迎い入れ活動の自由を保障することに尽力した。心身の苦痛のため麻薬を使用しだし、金銭面を考えない豪遊を繰り返し、妄想に満ちた思考の中に堕ちていたアルトーを、優しく悲しく見守り、実務家的な才能から生活を支えていたデュビュッフェ。攻撃的な芸術家の姿とは違った一面を見せていてとても新鮮な感じがした。
ジャン・デュビュッフェが提唱し生涯にわたってこだわりを見せた「アール・ブリュット(生の芸術)」の概念が、アルトーが『魔術と映画』のなかで使った「シネマ・ブリュット(生の映画)」から手がかりを得ているのではないかという著者の慧眼から出た指摘からも、デュビュッフェとアルトーの結びつきの強さが感じられ、とても興味深く読んだ。


【付箋箇所】
74, 75, 76, 87, 118, 135, 152, 154, 157, 163, 176, 180, 185, 208, 225, 234, 241, 244, 266, 270, 275, 286, 294, 297, 298, 308, 311, 330, 340, 343

目次:
ワイン卸商の息子
別の芸術を求めて
他人の顔、他人の土地
波瀾の反文化的芸術
ウルループの新次元
記憶の劇場

ジャン・デュビュッフェ
1901 - 1985
末永照和
1931 -