読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

オクタビオ・パス『もうひとつの声 詩と世紀末』(原著 1990, 木村榮一訳 岩波書店 2007)

『弓と竪琴』(1956)『泥の子供たち』(1972)につづく詩論三部作の三作目。人間にとっての世界を生むはたらきを持つ想像力の重要性を説く基本姿勢に変わりはないが、本書は詩人と詩の社会的な位置についての言及が比較的多く、詩自体のはたらきにより多く注目している『弓と竪琴』『泥の子供たち』に比べて、より世俗的な印象を受ける。個別に発表されたエッセイを集めたということもあって、比較的ざっくばらんな内容となっている。「詩は技術と市場に対する解毒剤である」として、市場原理と大衆化、実利と同一化に向かう力からの離脱飛翔を、詩を生み出す想像力の本質として擁護しようとしているのは、オクタビオ・パスの一貫した姿勢であるが、本書は詩論のなかではもっとも読者寄りの立論となっているので、素直に受け取りやすく、読みやすくもある。

詩は今起こりつつあることをうたう。その働きは形を与えて、日々の暮らしを目に見えるものにすることである。それが詩の唯一の使命ではないが、もっとも古く、永続的で、しかも普遍的なものである。
(「均衡と予測」より)

名前の集合である世界に、いまここで新たな名づけを試みようとして生まれる詩の特質を、詩人として批評家としてオクタビオ・パスは言葉を変えながら何度も繰り返し取り上げて、人々に届けようとしているのである。
ほかには、キリスト教的西欧が詩人自身が詩のテーマ、主人公になる変化をもたらしたという指摘などにも優れた洞察力が見られ、注目に値する。

 

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【付箋箇所】
4, 13, 32, 42, 45, 61, 66, 68, 78, 83, 102, 129, 153, 173, 180, 182

目次:
第Ⅰ部 詩と近代

第一章 語ることと歌うこと(長編詩について)
第二章 断絶と収斂
 1 近代とロマン主義
 2 近代と前衛主義
 3 収斂の詩
第三章 詩,神話,革命

第Ⅱ部 詩と世紀末

第一章 少数者と多数者
第二章 量と価値
第三章 均衡と予測
第四章 もうひとつの声


オクタビオ・パス
1914 - 1998
木村榮一
1943 -