読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

パウル・クレー『教育スケッチブック 新装版バウハウス叢書2 』(原著 1925, 利光功訳 中央公論美術出版社 2019)

ヴァイマール・バウハウスでの1921-22年に行った形態論の授業のエッセンスを編集し刊行した実践的理論書。『造形思考』や『無限の造形』にくらべるとコンパクトで、メモ程度の文章に最低限のスケッチをつけポイントのみを浮かび上がらせた簡潔な手引書の印象の著作。本書を読むことは、クレー自身の作品の引用がないこともあって、クレーの創造に関わる思想を得るというよりも、絵画というジャンルが表現しうる運動と形式とエネルギーの基本型を、バウハウスの学生ともども読者も学習するという体験に近い。

実際にパウル・クレーの理論的な著作を読んでみて、自分も手を動かして絵を描いて見ようとすると、たちまち能力の差に気づいて、自分の行為に幻滅したりはするのだが、実践してみないことには分からないこともあるし、実践してみてよりよく理解できることもあるので、素人であることに居直って、クレーの著作を傍らに置きつつ、絵のようなものを画いてみるのもいい経験である。100均でスケッチブックとクレヨンを買ってきて、色彩を並べてみるだけでも本を読むだけとは違った感覚を得ることができるし、画材の特徴のようなものも実感として知ることができる。失敗したとて、たかが200円で買った汚れた画材とちょっと傷つく自分とが残るだけだ。

地上的なものと天上的なものを随意に踏破する理念的能力は、人間の身体的無力と対立し、人間の悲劇の源泉である。力と無力の抗争が人間存在の内面的相剋である。

無力と無能を知ってそこから工夫がはじまれば、新たな何ものかが生まれる。何もしなければそれこそ無だといったのもパウル・クレーであった。

https://www.chukobi.co.jp/products/detail.php?product_id=794

 

パウル・クレー
1879 - 1940
利光
1934 - 2023