読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

マックス・エルンスト『慈善週間 または七大元素』(原著 1934, 巖谷國士訳 河出文庫 1997, 河出書房新社 1977)

『百頭女』『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』に次ぐコラージュ・ロマン三部作の最終巻。小説と銘打ちながら、章ごとの冒頭にエピグラフとして引かれる他者の文章以外には、エルンストがつけた章題のほかに文章が全くない徹底的で斬新な一冊。200枚近い銅板コラージュ作品のみ構成される本作は、ひとつひとつの銅版画コラージュとその連なりから、読者が物語を創造しつつ読みとるように意図されているようだ。繰返しが味わいを深くしていくであろう作品で、自分の想像力と鑑賞力を試されているようにも感じる。ダンディーな男たちと妖艶な女たちが血と死と暴力と幻想にあふれた世界で織りなすドラマティックな場面の数々は、単体でも絵画作品を見るような充実したものとなっている。雰囲気的にはどことなくデルヴォーの世界も想起させるシュルレアリスムの作品。
ちなみにコラージュ作品の実際の大きさは28×21cm程度。文庫本では約四分の一に縮小されているので、ほかの画集で実寸で取り上げられているものと比較すると、作品が持つ生気はかなり削減されている。大判の書籍であればさらにすごいものであろうと想像できるので大変だ。エルンストの凄味は文庫本サイズだけではおそらく判断できない。

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【目次】
第1のノート 日曜日 元素‐泥 例‐ベルフォールの獅子
第2のノート 月曜日 元素‐水 例‐水
第3のノート 火曜日 元素‐火 例‐龍の宮廷
第4のノート 水曜日 元素‐血 例‐オイディプース
第5のノート 木曜日、金曜日、土曜日
  木曜日 元素‐暗黒 第一例‐鶏の笑い
  木曜日 元素‐暗黒 もう一例‐イースター島
  金曜日 元素‐視覚 例‐視覚の内部  三つの見える詩
  土曜日 元素‐未知 例‐歌の鍵

 

マックス・エルンスト
1891 - 1976
巖谷國士
1943 -

参考:

uho360.hatenablog.com

uho360.hatenablog.com