読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『マチネ・ポエティク詩集』(水声社 2014)

マチネ・ポエティクとは、太平洋戦争中の1942年に、日本語による定型押韻詩を試みるためにはじまった文学運動。詩の実作者としては福永武彦加藤周一原條あき子中西哲吉、白井健三郎、枝野和夫、中村真一郎が名を連ねている。後に散文の各分野において大きな仕事をなす錚々たる面々が揃っているのにも関わらず、運動自体はさしたる成果を上げることもなく、否定と嘲笑のうちに終焉を迎えた。一冊の詩集として世に問うた時期が1948年と戦後間もないこともあって、時代の流れにそぐわない反時代的な提言であったことも不利にはたらいたのであろう。

本書は1948年に真善美社から刊行された『マチネ・ポエティク詩集』初版本を定本に、安藤元雄大岡信による詳細な解説をも付して、水声社から近年刊行されたもの。マチネ・ポエティクの日本語による定型押韻詩の試みの可能性が尽きていないことを、水声社の編集者が見て取ったところから生まれた出版物で、安藤元雄の1981年のエッセイと大岡信の1989年のエッセイを付けて、現代詩の大きな可能性として日本語定型押韻詩を再提示している。

特に読まれるべきなのは、実作の音韻分析をしながら日本語の詩歌における音の響きとことばのリズムの傾向について語った大岡信のエッセイ「押韻定型詩をめぐって」で、引用されている二つの文献、九鬼周造の『日本詩の押韻』と林原耒井の『俳句形式論』とともに、日本語詩歌の可能性を真摯に問うているところが参考になる。

実作では福永武彦ソネットが最もよく考えられ構成されているように感じるが、それでも定型押韻を作るためにやや古い用語を使用していたりして、多少感興を欠くことは否めない。ただし、嘲笑の対象としてではなく、実現の難しさに果敢に挑んだ姿として記憶したい作品であることは間違いない。

堕ちた星は想ふとはの緑
時の葉にしたたる日日は早く
朱の酒を投げてあかつきを焚(や)く
陽のめぐりは止むが涯(はたて)にひとり
(「星」より)

 

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【目次】
序 詩の革命
詩篇
  福永武彦 
  加藤周一 
  原條あき子 
  中西哲吉 
  白井健三郎 
  枝野和夫 
  中村真一郎
  
マチネ・ポエティク詩集』について 安藤元雄
押韻定型詩をめぐって 大岡信

【付箋箇所】
10, 166, 177, 181, 185, 188, 206, 208, 213, 227,