読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

有田忠郎『光は灰のように』(書肆山田 2009)

多田智満子とともにサン=ジョン・ペルスの訳者である有田忠郎。いずれも詩人で、いずれも異なる作風であることが、いちばん気にかかる。

ある程度の分量になる場合、書くということは、書き手の本質を浮かび上がらせずにはおかない、ということに気づかせてくれる。関心と本質の違い、日本語とフランス語の表現の歴史的文化的違い。詩作において敢えて誰かに似せようとしていないところから、逆に何らかの方向性が生じてしまうという怖さ。日本語で書かれた詩は、他国の言語であるフランス語で書かれた詩よりも、より似通ってしまうという傾向にあることが、有田忠郎、多田智満子、サン=ジョン・ペルスと読むことで分かってくる。
日本とフランス、情念と理性。ベースにしているところと着地点としているところが、表現の基盤である言語から違っているようで、性別まで違う日本人詩人の訳者二人より、サン=ジョン・ペルスと日本語訳者の詩作品の間のほうが、異質な感じが生じている。

薄原わたるは今日も風ばかり

似たような表現がサン=ジョン・ペルスの詩句にあっても、上記のような日本語表現には、無常に偏した湿り気が付き纏う。乾いた晴朗性とは異なる日本的風土性といったものが、人間の表現の類型として確固として存在しているような思いを抱かせる。

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【付箋箇所】

目次:

夢の鏡  
まひるの朝食   
ある午後   
そのひとは   
遊星の人   
パンタ・レイ   
船   
夏が来たら   
リスカン   
声と分節   
鳥   
精巧な天使   
白い紋が葉叢に   
アラン谷の夏   
ダリと呼ばれた猫   
最後の壁   
ギリシャの十字架   
丘の上の灯―アシジ   
夢の書物   


有田忠郎
1928 - 2012
多田智満子
1930 - 2003
高橋睦郎
1937 -
サン=ジョン・ペルス
1887-1975